人は自分でダメだと思っている部分を褒められても嬉しく感じるのか?

最終更新日

Comments: 0

他人から褒めてもらえると嬉しいものです。仕事の成果を褒めてあげたり、学校の成績を褒めてあげたり、褒めることはモチベーションを上げるテクニックとしても定番ですよね。

しかし、褒めてもらえても自分では全然納得できないこともあって、これには他者の評価と自分の評価と方向性が関係します。

自分でうまくできたと思っていて他者からも褒めてもらえると、両者の評価の方向性は一致しているので当然嬉しいわけです。一方で、自分ではダメだったと思っていて、しかし他者は褒めてくれるという方向性が食い違った状況では、純粋に嬉しいとはならずに、もうちょっと複雑な心境になることがあります。

そこで本稿では心理学の研究(*1)を参考に

  • 自己評価と矛盾する他者評価の感じ方
  • 良好な人間関係を築くための評価の仕方

についてお話ししていきたいと思います。

人はいつもポジティブな評価を好むのか?

心理学の研究では、自己評価に関して2つの理論があります。

①自己強化(Self-Enhancement)

一つ目は自己強化理論で、人は常に自己評価を高めてくれるポジティブな情報を好むというものです。例えば、自己強化の良い例としては、人は常に自分の能力を少し過大に評価する傾向が確認されていて、

  • 成功は自分のおかげだと考えるが、失敗は他人や環境のせいにしがち
  • 大多数の人が自分は平均以上だと考えている
  • ネガティブなフィードバックよりもポジティブなフィードバックを好む

と、人は自分が好きで自分を高く評価したいバイアスがあるということです。

そのため、自己強化の考えでいけば、失敗したことや自分の弱みだと思っていることなど、自己評価がネガティブなものであっても、他者から褒めてもらえると嬉しいはずです。つまり

  • 自己評価がネガティブな場合でも、ポジティブな他者評価を好む

ということですね。これは今回の研究のポイントです。

②自己検証(Self-Verification)

そしてもう一つの理論が自己検証といって、人は自己評価と一致する情報を好むというものです。

自分が得意だと思っていることを褒めてもらえれば嬉しく、逆に自分が苦手だと思っていることや失敗したと思っていることは、自己評価通りにネガティブに評価された方がしっくりくるということですね。

つまり、自己検証では自己強化とは逆のことが起きていて

  • 自己評価がネガティブな場合には、ネガティブな他者評価を好む

ということなんですね。

自己強化 vs 自己検証

それで心理学の研究(*1)が、自己強化と自己検証のどちらが正しいのか?について、メタ分析でこれまでの研究結果をまとめて結論を導いてくれています。

それでは、分析結果の方を見ていきましょう。

結果1:他者評価の受け付け方

まず他者の評価を自己強化と自己検証のどちらで受け付ける傾向があるのかについては、

  • 認知プロセス的には自己検証の方が正しい
    つまり、自己評価と一致する他者評価を妥当だと考える傾向があり、自己評価と一致する評価を情報として受け付けやすい傾向がある。
  • 感情的には自己強化の方が正しい
    自己評価と一致していてもネガティブな他者評価まで嬉しいと感じるわけではない。自己評価に依らずにポジティブな評価を感情的には嬉しいと感じる傾向がある。

ということが分かっています。

褒めてもらえて嬉しいのはどんな時でも一緒、だけどその人の自己評価と矛盾していた場合には、情報としてはまともに受け止めてもらえないということですね。

結果2:情報の取捨選択

続いて自分から情報を探すときに、ポジティブな情報を探しに行くのか、それとも自己評価と一致する情報を探しに行くのかについては、

  • 人は自己評価と一致するフィードバックを探す傾向があり、自己評価と矛盾するフィードバックは避ける傾向があった
  • しかし、自己評価と矛盾していてもポジティブなフィードバックの方が好き嫌いで言えば好きな傾向があった

ということ。こちらも他者の評価への反応と同じように、自己評価と一致するフィードバックを選択的に求める一方で、感情的にはポジティブなフィードバックの方が嬉しいということですね。

結果3:人間関係

そして最後に、自己評価と一致するフィードバックをあげる方が人間関係はうまく行くのか?、それとも矛盾していてもポジティブなフィードバックを上げた方が人間関係はうまく行くのか?についても分析してくれています。

その結果は

  • 結びつきの浅い人間関係では、ポジティブなフィードバックをあげた方が人間関係はうまく行く
  • 結びつきが深い人間関係では、その人の自己評価に一致するフィードバックをあげる方が人間関係はうまく行く

ということです。

結びつきが浅い場合には、ネガティブなフィードバックを与えると、縁が切れてしまう可能性があるので、ポジティブなフィードバックを多くした方が良いみたいです。逆に結びつきが深くて簡単に切れない人間関係では、相手の自己評価に合わせてネガティブなフィードバックもしてあげた方が人間関係はうまくいくみたいですね。

まとめ

本稿では「自己評価と矛盾する他者評価の受け付け方」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 人は感情的にはポジティブな評価を嬉しく感じが、情報としては自己評価と一致する評価を好む
  • 浅い人間関係ではポジティブなフィードバックを多くして、人間関係が深くなったらその人の自己評価にあったフィードバックをすると良い

ということですね。

褒めのテクニックで使うなら、信頼関係を築くまではポジティブな評価で褒めて伸ばして、深い信頼関係ができたらその人がネガティブに感じていることにも踏み込んだフィードバックをあげると良さそうですね。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Do People Embrace Praise Even When They Feel Unworthy? A Review of Critical Tests of Self-Enhancement Versus Self-Verification

Naoto

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする