自分へのやさしさが失敗から立ち直るモチベーションを高めてくれるという研究
人生はいいこともあれば、悪いこともあるわけで、
悪いことがあったときにはそこから立ち直って上昇するモチベーションが必要なわけです。
しかし、人によっては悪いことがあったときにあまり気にせずにサッと次へ行ける人と、落ち込んでしまってなかなか抜け出せない人がいますよね。あるいは同じ人でも出来事によって落ち込みの度合いが変わるかもしれません。
心理学の研究(*1)によると、こういったときに大切なのは”自分へのやさしさ”とのこと。
そこで本稿では、セルフ・コンパッションとその効果について説明して行きたいと思います。
セルフ・コンパッションとは?
セルフは自分という意味で、コンパッションは思いやりという意味です。
つまりセルフ・コンパッションとは他人に優しくするように思いやりを自分自身に向けてあげることなんですね。
最近ではこのセルフ・コンパッションが心理学の分野やで研究されていて、
セルフ・コンパッションはメンタル面に良い効果があることがわかっています。
例えば、セルフ・コンパッション能力の高い人は
- ポジティブな感情が多い
- 楽観主義な人が多い
- 幸福度が高い
- 不安や気分の落ち込みが少ない
といったことがわかっています。
自尊心との違い
セルフ・コンパッション(Self-Compassion)を理解する上では自尊心(Self-Esteem)との違いを抑えておくことが大切です。
簡単に言えば、自尊心は自分のことをすごいと思うことです。自尊心が低いと自分に自信が持てなくなってしまうので問題ですが、一方で自尊心は高すぎてもナルシストの傾向が出てしまって問題になってしまいます。
自尊心と比較するとセルフ・コンパッションの意味は少し違っていて、セルフ・コンパッションは自分のことをすごいと思えなくても、優しくありのままの自分を受け入れてあげることを言います。なのでセルフ・コンパッションは高すぎてもナルシストになってしまうような危険はないんですね。
セルフ・コンパッションが立ち直りのモチベーションを上げる!
セルフ・コンパッションと立ち直りのモチベーションを調べた研究があって、これがなかなか面白い実験をしているんですね。
この研究では合計4つの実験を行っているので、それらを参考にセルフ・コンパッションの効果をみて行きましょう。
実験1:セルフ・コンパッションとマインドセット
まず最初の実験の手順は次の通り
①参加者全員に自分の短所を書き出してもらう
②3つのグループに分けて、別々のことをやってもらう
セルフコンパッショングループ:自分自身に優しい言葉をかけてもらう
自尊心グループ:自分の長所を認める言葉をかけてもらう
コントロールグループ:何もしない
③自分の能力や性格を変えることができると信じているかどうかに関する質問に答えてもらう
③の手順で測定しているのは成長マインドセットという大切な考え方で、成長マインドセットの人は、困難な課題にも挑戦して、たとえ失敗してもそれを活かして成長してくことができるんですね
そして実験の結果わかったことは
- セルフコンパッショングループが一番成長マインドセットが高かった!
ということ。つまり、自分の短所に対して優しい言葉をかけるだけで、成長マインドセットの値が高くなったというですね。
実験2:セルフコンパッションと立ち直りのモチベーション
実験2も実験1と同じような手順となっていて
①参加者に最近あった罪悪感を感じるような失敗を思い出してもらう
②実験1と同様に3つのグループに分ける
(セルフコンパッション向上・自尊心向上・コントロール)
③今後その失敗を繰り返したくないとどれだけ思っているか、あるいはその失敗を修正したいとどれだけ思っているのかを測定(失敗を活かして立ち直ろうとするモチベーションを測定)
その結果は
- セルフコンパッショングループが一番立ち直ろうとするモチベーションが高かった!
ということ。実験1ではセルフ・コンパッションが成長マインドセットに考え方を変えてくれるという結果でしたが、実験2ではそれを行動につなげようとするモチベーションが確認されたわけですね。
実験3:セルフコンパッションと立ち直りの行動①
実験3ではセルフ・コンパッションが実際に立ち直りの行動を増やしてくれるのかを調査しています。
この実験の手順は
①すごく難しい英語のテストを実施して、わざと落ち込ませる
②3つのグループに分けて、それぞれ別の指示を受ける
(セルフコンパッション向上・自尊心向上・コントロール)
③2回目のテストの前に勉強する時間を与えて、どれだけ勉強するかを測る
④2回目のテストを実施する
で、その結果は
- セルフコンパッショングループが一番勉強時間が長かった!
(306秒 vs 230秒 vs 119秒) - セルフコンパッショングループが一番2回目のテストの点が良かった!
(7.4点 vs 6.9点 vs 7.0点)
ということで、セルフコンパッショングループが1回目の失敗から点数を取り戻そうと一番多く行動したことがわかったんですね。
実験4:セルフコンパッションと立ち直りの行動②
最後の実験4も同じようにセルフ・コンパッションが実際に立ち直りの行動を増やすかどうかを実験しているのですが、行動の種類を変えています。
この実験の手順は次の通り。
①自分の短所を書き出す
②3つのグループに分けて、それぞれ別の指示を受ける
(セルフコンパッション向上・自尊心向上・コントロール)
③次のうち誰と交流を持ちたいかを聞く
(1)自分と同じ短所と持っていたが克服した人
(2)自分と同じ短所を持っている人
(3)自分と同じ短所を持っていて自分よりももっとひどい人
自分の短所を克服して立ち直りたいという人は手順3で(1)の人を選ぶはずだというわけですね。
この実験の結果は
- セルフコンパッショングループが一番(1)克服した人を選ぶ確率が高かった
(83% vs 63% vs 44%)
ということで、実験3と行動の種類を変えてみてもセルフコンパッションが高い人ほど立ち直りの行動が増えたということですね。
まとめ
以上、本稿ではセルフ・コンパッションと失敗や挫折からの立ち直りについて説明しました。
ポイントをまとめると
- セルフ・コンパッションは成長マインドセットを高める
- セルフ・コンパッションは立ち直りの行動へのモチベーションを高める
- セルフ・コンパッションは立ち直りの行動を増やしてくれる
- セルフ・コンパッションを高めるにはありのままを受け入れて自分に優しい言葉をかけてあげるとよい
ということですね。
人生は山あり谷ありですが、立ち直りの最初のステップは自分に優しくすることで、感情やありのままの自分を受け入れてあげることなのかもしれませんね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]