情熱はスポーツのパフォーマンスを上げてくれるのかの研究

「この世界で情熱なく成し遂げられた偉大なものはない」

ヘーゲル

バスケットボールのマイケルジョーダン、野球のイチロー選手など、偉大なスポーツ選手は誰よりも練習していて、そのスポーツに情熱を持っています。

しかし、情熱の一部には悪い作用もあって、オーバートレーニングで体を壊してしまったり、怪我をしているのに練習がやめられなかったり、ということを引き起こしてしまう可能性もあります。

そこで、本稿では

  • 情熱の2種類のタイプとは?
  • どのような情熱がスポーツのパフォーマンスを上げてくれるのか?

についてお話ししていきたいと思います。

情熱の2種類のタイプ

情熱とは、「その活動が好きで時間やエネルギーを注ぎ込みたいと思うこと」です。情熱は自分のアイデンティティとも結びついている側面もあって、ただ好きというレベルでなく、その活動が自分の一部となっています。

例えば、走ることに情熱を感じている人は、走るのが好きなのはもちろん、自分がランナーだということに誇りだったり自分らしさを感じているということですね。

それで、この情熱には発生の仕方によって2つの種類があると言われています。

①調和的な情熱
調和的な情熱は、好きでその活動をするという自分の内面から生まれる情熱です。調和的な情熱には良い効果が多くて、活動にポジティブな感情を感じやすかったり、フローという集中状態に入りやすかったりします。

②脅迫的な情熱
脅迫的な情熱は、周りからのプレッシャーであったり、他の人から評価されたいといった外部的な理由からくる情熱のことです。脅迫的な情熱も、情熱の一つではあるので、熱心に活動をすることにはつながるものの、副作用的に悪い効果もあって、ネガティブな感情を感じやすかったり、怪我があっても無理をして活動を続けてしまったりすることもあります。

情熱とスポーツのパフォーマンス

それで2つの情熱のタイプがあるということでしたが、この2つがそれぞれスポーツのパフォーマンスとどのように関係しているのかを確かめてくれた研究(*1)があります。

この研究では、184人のバスケットボール選手を対象にして、情熱の高さとコーチから見たパフォーマンスの高さの関係を調べてくれています。

結果:情熱とパフォーマンス

研究の結果によると、

  • 調和的な情熱が高いほど練習量が多かった(r=.51)
  • 脅迫的な情熱が高いほど練習量が多かった(r=.56)
  • 練習量が多いほど、パフォーマンスが高かった(r=29)

ということで、どちらのタイプの情熱も高ければ高いほど練習量が増えて、その結果としてパフォーマンスも向上していたということです。

ちなみに、情熱とパフォーマンスの相関も調べていて

  • 調和的な情熱が高いほどパフォーマンスが高かった(r=.15)
  • 脅迫的な情熱が高いほどパフォーマンスが高かった(r=.36)

その結果ではどちらの情熱もパフォーマンスと相関有りでしたが、脅迫的な情熱の方が相関は少し高くなっています。脅迫的な情熱はパフォーマンスを上げてくれるけど、ネガティブな効果もあるという諸刃の剣であるということですね。

結果:目標のタイプ

この研究ではさらに深掘りして、情熱がどのようなタイプの目標に向いているのかも考慮して、2つ目の実験を行っています。

目標のタイプとは

能力向上タイプ:自分の能力を向上させることを目標にする
結果獲得タイプ:他人に勝つことを目標にする
結果回避タイプ:負けといったネガティブな結果を回避することを目標にする

の3種類のことです。

そして、分析の結果は

  • 調和的な情熱が高い人は、能力向上タイプの目標を持つ傾向があった
  • 脅迫的な情熱が高い人は、能力向上タイプの目標も持ちつつも、結果獲得タイプと結果回避タイプの目標の方が強い傾向があった

ということ。さらに

  • 練習量の向上につながっていたのは、能力向上タイプの目標だけだった
  • 結界回避タイプの目標は、パフォーマンスを低下させてしまった

ということなんですね。

なので、パフォーマンスの観点で理想的な情熱とは「純粋に自分の能力向上に向けられた情熱」ということですね。

結果:幸福感

先の研究では、情熱の種類と幸福感の関係についても分析してくれていて

  • 調和的な情熱は、幸福感を向上させた
  • 脅迫的な情熱は、幸福感とは関係なかった

ということ。

なので、幸せになりたい場合は、自分の内面からくる調和的な情熱を大切にした方が良いということですね。

まとめ

本稿では、「情熱の種類とスポーツのパフォーマンス」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 情熱には調和的な情熱と脅迫的な情熱の2種類がある
  • どちらの情熱も練習量の向上につながり、その結果としてパフォーマンスも向上する
  • パフォーマンスの向上の観点では、情熱は自分の能力の向上に向けられると良い
  • しかし、脅迫的な情熱はオーバートレーニングになりやすかったり、ネガティブな感情を感じやすかったりする悪い面もあるので注意

ということですね。

自分の能力向上を目標にすると良いということでしたが、他人に勝ちたいという目標が悪いわけではありません。この2つは同時に持つこともできるので、ただ他人に勝ちたいだけになってしまわなければいいわけですね。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Passion and performance attainment in sport

Naoto

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