人は能力をどう判断するのか?他人との比較と過去の自分との比較が評価に与える影響について
本稿のテーマは「人は人の能力をどのように評価するのか?」です。
人の能力のレベルを測るときには何らかしらの基準が必要で、この基準には次の2つの情報が使われることが考えられます
- 他人との比較
人の能力を他の人の能力と比較して、その優劣で能力を評価する方法 - 時間での比較
過去の能力と現在の能力を比較して、その伸び具合あるいは低下具合を参考に能力を評価する方法
例えば勉強で言えば「テストで前回よりもいい点が取れた」は時間での比較で、「テストの点数が平均以上だった」は他人との比較ですね。
それで気になるのが、人はこの2つの情報をどのように組み合わせて評価しているのか?です。
例えば、ある人がテストの点数が徐々に向上していて、だけど周りの人の点数がそれ以上に向上していた場合はどうでしょう?その人の能力が向上していると見るのか、低下していると見るのかは、他人との比較と時間との比較のどちらの見方を使うのかで変わってきますよね。
そこで、ここらへん能力の評価の仕組みを実験で確認してくれた研究(*1)があるので、本稿ではこの研究の中身を見ていきましょう。
人は能力をどのように比較するのか?
この研究では310人の学生を対象に、社会的感受性の能力テストを実施して、そのテストの結果から能力をどのように評価するのかを調べています。時間での比較を行えるようにするために、社会的感受性のテストは2週間間隔で全部で5回実施しています。
各参加者はテスト毎に結果のフィードバックをもらえるのですが、ここでもらえる結果は研究のために意図的に操作した内容となっていて、次の6種類のどれかがもらえます。
時間と比較 | 他人と比較 | |
① | テストのたびに成績が低下する | 平均以上 |
② | テストのたびに成績が低下する | 平均 |
③ | テストのたびに成績が低下する | 平均以下 |
④ | テストのたびに成績が向上する | 平均以上 |
⑤ | テストのたびに成績が向上する | 平均 |
⑥ | テストのたびに成績が向上する | 平均以下 |
例えば、①の人はずっと平均以上の成績をとっているけど、5回の中で徐々に成績は低下してしまっているというテスト結果になります。逆に⑥の人は、ずっと平均以下だけど、徐々に成績が向上しているという結果がフィードバックされます。
それで、問題となるのはこの結果を受けての能力の評価方法で、これらの6種類のフィードバックで
- 時間との比較を優先して能力を評価するのか?
- 他人との比較を優先して能力を評価するのか?
が変わるのかを分析してくれたわけですね。
さらにこの研究では、
- 自分のテストの結果を見て、自分の能力をどう感じるのか?
- 他人のテストの結果を見て、その人の能力をどう感じるのか?
の両方を測定していて、自分を評価する場合と他人を評価する場合の評価方法の違いまで分析してくれています。
結果
まず最初に、全体的な傾向としてわかったことは
- 時間とともに成績が向上した人の方が能力は高く評価された
(向上した人 M=5.77 、 低下した人 M=5.40) - 他人と比較して成績が高かった人の方が能力は高く評価された
(平均以上 M=6.12、平均 M=5.75、 平均以下 M=4.87 ) - 他人を評価するときよりも、自分を評価するときの方が能力は高めに評価された
(自分を評価 M=5.74、他人を評価 M=5.44)
ということ。当たり前ですが、他人との比較でも、時間での比較でも、より成績が良いあるいは良くなっている人が能力が高いと評価されています。
さらに、これらの要素の相互作用を分析してみると
- 時間による能力の向上は、特に自分の能力を評価するときには重視され、他人を評価するときにはあまり重視されなかった
- 時間による能力の低下は、自分を評価するときでも他人を評価するときでもあまり重視されなかった
ということです。なので、時間による成長は、自分自身では能力は高まっている感覚はあっても、他人から見ると評価はされづらいということですね。例えば、仕事で頑張って自分では能力が向上していることに強い実感を感じていても、上司から見るとまだまだと感じられてしまうギャップが生まれてしまう可能性があるわけですね。
ちなみに、他人との比較による能力の評価については
- 他人との成績の上下関係は、自分を評価する場合でも、他人を評価する場合でも、同じように重視された
ということです。他人との比較と時間での比較が人の評価へ与えた影響の大きさを見てみても、他人との比較の方が大きな影響を持つことがわかります。なので、能力の評価は他人との比較がベースになっていて、それに対して自分で自分を評価するときには時間での比較が加わるという感じなっているということですね。
まとめ
本稿では「人の能力を評価するときの認識の仕方」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 人は自分を評価するときには、他人との比較と時間での比較の足し算で評価を決める傾向がある
- 人は他人を評価するときには、他人との比較のみで評価を決める傾向がある
ということですね。
人は他人を評価するときには、他人との成績の比較のみで評価を決める傾向があるということですが、将来の能力の伸びも考慮するなら、時間での比較も考慮してあげた方が良いでしょう。
また、今回の研究では能力の伸びや他人との比較を明示的にフィードバックしていましたが、現実ではそれらのフィードバックが用意されていなくて気が付けないことがあるかも知れません。なので必要に応じて自分からフィードバックをもらいに行ったり、自分の成長を振り返ってみたりすると良いのかもしれませんね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1: Self-Evaluative Effects of Temporal and Social Comparison