他人のためにお金を使うことは、長期的には幸福感を下げてしまうこともある

お金は固執し過ぎると幸福度が下がってしまう一方で、幸福感を上げてくれるお金の使い方もあります。例えば、

  • お金を使って時間を買う
  • 他人のためにお金を使う
  • 物ではなく経験を買う

などのお金の使い方は幸福感を上げてくれることが研究により分かっています。

それで、他人のためにお金を使うことの効果をドイツのボン大学が深掘りして調べてくれていて

  • 他人のためにお金を使うことは、短期的には幸福感を上げても、長期的には幸福感を下げてしまうこともある

という結果になっていて面白かったので、本稿ではその中身を見ていきましょう。

寄付による幸福感の長期的変化とは?

この研究では、寄付が幸福感を上げてくれる効果が長期的にどのように変化するのかを実験により調べてくれています。

この実験では合計で591人の参加者に、

  1. 350ユーロ(約4万円)を寄付する
    (肺結核の患者一人の命を救える)
  2. 100ユーロ(約1万円ちょっと)を自分でもらう

のどちらかを行ってもらいます。ただし、ランダムに振り分けて無理やり寄付させるのではあまり意味がないので、参加者には次のどちらかのくじをを自ら選んでもらっています。

  1. 利他的なくじ
    60%の確率で寄付、40%の確率で自分がもらうが当たるくじ
  2. 利己的なくじ
    40%の確率で寄付、60%の確率で自分がもらうが当たるくじ

こうすることで、自分が寄付と自分でもらうのどちらがいいのかを選びつつも、振り分けをランダムにすることができるわけです。

そうすると、結果として参加者は

  • 利他的なくじを選んで、寄付が当たった人
  • 利他的なくじを選んだけど、自分でもらうが当たった人
  • 利己的なくじを選んだけど、寄付が当たった人
  • 利己的なくじを選んで、自分でもらうが当たった人

の4パターンに分けられます。

そして実験として測定したのが、

  • 幸福感
  • 自分のイメージ
  • 気分

で、寄付やお金をもらった直後と、それから1ヶ月後の時点の2つのポイントで測定しています。

結果①:寄付の短期的な効果とは?

まずお金を寄付した直後、または自分でもらった直後の短期的な効果の結果を見てみると

  • 利他的なくじを選んで、その選択の通りに寄付が当たった人は、幸福感が向上した
  • 利己的なくじを選んだけど、寄付が当たった人の幸福感は向上しなかった
  • どちらのくじの選択でも、自分でお金をもらった人は幸福感は低下してしまった

ということ。他の研究でも分かっている通り、寄付をして他人にお金を使うことが幸福感を上げてくれています。ただし、自分でお金が欲しかったのに寄付が当たってしまった人は幸福感は上がらなかったということで、望まないのに無理して寄付することは効果はなさそうですね。

また、自分のイメージや気分に関する結果としては

  • 寄付が当たった人は、自分のイメージが向上した
    (自分が倫理的でいい人だというイメージが向上した)
  • 利他的なくじで寄付が当たった人と、利己的なくじで自分でもらうが当たった人は、気分が向上した(自分の選択とマッチした結果で気分は向上した)

ということ。なので、寄付することは、幸福感だけでなく、自己イメージや気分も短期的に向上してくれるということですね。

結果②:寄付の長期的な幸福感

1ヶ月後に長期的な効果としては、幸福感で面白い現象が起こっていて

  • 1ヶ月経つと、寄付をした人の幸福感は、寄付の前よりも低下してしまった
  • 1ヶ月経つと、自分でもらった人の幸福感は、お金をもらう前よりも向上していた

ということ。

つまり、寄付をした人は、短期的には幸福感が向上するけど、長期的には元の幸福感以下に低下してしまう。お金を自分でもらった人は、短期的には幸福感は低下するけど、長期的には幸福感は向上する。と、時間の経過とともに幸福感の効果が逆転してしまっているんですね。

お金を他人に使うと幸せになれるということですが、単発の寄付だけでは持続的な幸福感は得られないのかもれませんね。

まとめ

本稿では、「寄付が幸福感上げることの長期的な効果」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 自ら望んで行う寄付は、短期的には幸福感、自己イメージ、気分を上げてくれるが、長期的には幸福感が低下してしまう可能性がある
  • 寄付せずに自分でお金をもらうことは、短期的には幸福感は下がるが、長期的には幸福感は向上する

ということです。

今回の研究では、他人のためにお金を使うことのネガティブな側面が明らかになりましたが、いくつか疑問点も残ります。

  • 身近な人へお金を使うことの効果は?
    今回は寄付という形で、自分と直接の関係のない人にお金を使っています。しかし、これが家族や友達などの身近な人であれば、その後の人間関係が向上して、持続的に幸福感が高まる可能性があります。
  • 金額を少額にしたら?
    他人のためにお金を使うことの幸福感の向上効果は、金額に依らずに少額でも同じ効果が得られることが分かっています。今回は約4万円の寄付と額が大きかったので、少額に分割して寄付の回数を増やせば持続的に幸福感が高めることができたかもしれません。

ということで、他人のためにお金を使うときは、その使い方にも注意が必要なのかもしれませんね。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Delayed negative effects of prosocial spending on happiness

Naoto

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