相手の立場になって考えるで、本当に偏見はなくなるのか?の心理学の研究

人には内集団バイアスと言って、自分と似た人を高く評価して、自分と異なる人は低めに評価してしまうというバイアスがあります。このバイアスはなかなか厄介なもので、ステレオタイプや偏見、差別などにつながってしまいます。

また、自分と他人とでは行動と原因の認識の仕方が違っていて、例えば何かミスをしたときには

  • 自分のミスは環境や状況のせいにしがち
  • 他人のミスはその人のせいにしがち

みたいな傾向があります。こういったすれ違いが原因で、相手の気持ちがわからずに喧嘩になってしまったりするものですよね。

そこで、これらのバイアスを避けるためによく言われるのが「相手の立場になって考えよう」です。自分目線で相手を見るとすれ違ってしまうので、相手の立場になって考えないといけないわけですね。

そこで、本稿ではこの「相手の立場に立つ」が本当にこれらのバイアスを減らしてくれるのかを検証してくれた研究(*1)を見ていきましょう。

バイアスを抑える方法とは?

ノースウェスターン大学らの研究(*1)が内集団バイアスを無くすために2つの方法の効果を検証しています。

  • 方法①:相手の立場に立って考える方法
    もし自分が相手の立場にいるとしたら、どのように感じるのかを考える方法。相手の置かれている状況への理解が深まるので、自分と相手の考え方のミスマッチが解消されて、偏見が少なくなるはず。
  • 方法②:頭の中で抑え込む方法
    内集団バイアスに囚われないように、自分の頭の中で注意して抑え込む方法。自分目線で相手を過小評価してしまっている可能性があることを意識しておけばフェアな評価ができるはずだが、注意力が必要なのが難点。

どちらかと言えば相手の立場に立つ方法が本命で、バイアスを抑え込む方法は相手への理解は深まらないのでバイアスを抑える効果は弱いのでは?と仮説を立てています。

実験

それでこの研究では、高齢者やアフリカ系アメリカ人の写真を見て、その人に関するエッセイを書いてもらうタスクで、どれだけエッセイに偏見が含まれるのかを測定しています。

このときに参加者は3つのグループに分けられていて

  1. コントロールグループ
    何も指示なしで自由にエッセイを書いてもらう
  2. 相手の立場に立つグループ
    もし自分がその人だったらどう感じるのかを考えてエッセイを書いてもらう
  3. 頭の中で抑え込むグループ
    内集団バイアスに囚われないように注意してもらいながらエッセイを書いてもらう

コントロールグループを基準に、下2つのグループでどれだけバイアスが減るのかを測定したわけですね。

結果1:相手の立場に立つ

まず相手の立場に立つグループに見られた効果は

  • エッセイの中に偏見が含まれる言葉が減っていた
  • エッセイの中で相手へのポジティブな評価の言葉が多く含まれていた
  • エッセイの後で90項目に及ぶ性格分析を自分の性格と自分が思う高齢者の性格の2つで実施すると、自分と高齢者の性格のオーバーラップが増えていた
  • 自分に似た人への評価と、自分と異なる人への評価の差が無くなっていた

ということ。

つまり、「相手の立場に立つ」は本当に相手との理解の壁をなくして、内集団バイアスを解消してくれることが分かったんですね。

イメージとしては、相手との距離が近づいて、自分と相手のオーバーラップが増えたようなイメージですね。

結果2:頭の中で抑え込む

一方で、頭の中で抑え込むグループは

  • エッセイの中の偏見が含まれる言葉は減っていた
  • しかし、エッセイの中での相手へのポジティブな評価の言葉は増えなかった
  • 自分と相手への性格のオーバーラップも向上しなかった
  • 偏見の含まれる言葉への脳の反応速度を測ると、頭の中で抑えこんだグループの人のみ反応速度が速くなっていた(無意識のレベルで偏見の含まれる言葉に敏感になっていた)

ということ。

つまり、頭の中で抑え込む方法では、偏見の言葉を含めないように敏感になるけど、相手への理解があまり深まることがなく、心の奥ではバイアスは解消できていないということが言えると思います。

まとめ

本稿では「相手の立場に立つは本当に効果があるのか?」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 人には自分と似た人を好きになって、自分と異なる人は嫌ってしまう内集団バイアスが存在する
  • 相手の立場に立つことは心理学的にも効果があって、内集団バイアスを解消してくれる!
  • バイアスを頭の中で押さえ込もうとする方法は、表面的な効果しかなくて内集団バイアスは解消しきれない!

ということですね。

「相手の気持ちを考える」と「もし自分が相手だとしたらと考える」ではまた効果が違うようで、相手の苦痛まで深く理解するには「もし自分が相手だとしたら」で考えないとダメということも分かっています。なので、自分目線でむかつくことや、こいつはダメだと思うことがあったときは、「もし自分が相手の立場だったら」で考え直してみましょう。


[参考文献]

*1 : Perspective-taking: Decreasing stereotype expression, stereotype accessibility, and in-group favoritism

Naoto

シェアする