損失回避バイアスはズルやイカサマをも増やしてしまうという研究
損失回避とは、人は何かを得る喜びよりも、何かを失う苦痛を強く感じるため、できるだけ損失を避けようとする傾向があることを言います。例えば、
- 1万円をもらった
- 1万円を無くしてしまった
は同じ金額なので両方で±0になりそうですが、人は失うことの苦痛の方が大きく感じるので、実際にはマイナスになってしまうんですね。
これは税金などでも起こるもので
- 全額の給料が支払われて、後日税金を支払わなければいけない
- あらかじめ税金が引かれた状態で給料が支払われる
を比べると、前者の後日税金を払う形式では、一度手にしがお金を失う苦痛が大きくなってしまうので、クレームが多くなってしまうことがわかっています。
それで、カッセル大学の研究では、損失回避とズルやイカサマなどの不正行動の関係を調べています。これがなかなか面白くて、
- 人は何かを得るためにズルをするよりも、何かを失うことを回避するためにズルをする方が多いのではないか?
という点を実験してくれています。本稿ではこの研究を参考に、損失回避のバイアスに囚われることの新たな弊害を見ていきましょう。
実験:損失回避と不正行動
この研究では90名の参加者を対象に、お金をかけたゲームを行っています。どんなゲームかというと、
- 3つのサイコロを25回振って、出た目に応じて賞金がもらえる(合計で75回)
- どの目が出たかは参加者の自己申告で、特に監視もされていないので、やろうと思えば出た目をごまかせる
そして、損失回避の影響を確かめるためにグループ分けをしていて
- 利益獲得グループ
サイコロの4が出るたびに10セントもらえる
(全部4が出たら最大7.5ユーロになる) - 損失回避グループ
最初に7.5ユーロもらって、サイコロで4以外が出るたびに10セントを失ってしまう(4が出たら10セントを守れる)
の2つのグループに参加者を半々で分けています。
結果:利益獲得と損失回避のどっちでイカサマが多いのか?
サイコロで4が出る確率は1/6なので、75回振った時の期待値は75/6 = 12.5回になるはずです。そのため、サイコロの4が出る回数が期待値よりも大きくなれば、参加者はイカサマをしていることになります。
実験の結果を見てみると、
- 利益獲得グループで4が出た回数の平均は、11.89回で期待値通りの確率になっていた
- 損失回避グループで4が出た回数の平均は、13.67回で期待値よりも大きな確率になっていた
ということ。13.67回という平均値が偶然出てしまう確率は約3%ほどなので、損失回避グループではイカサマをして4を多く申請している人がいる可能性が濃厚なわけです。
ちなみに期待値の12.5回を10%以上超えた人の割合で見てみても
- 利益獲得グループで29.8%
- 損失回避グループで56.4%
ということ。損失回避グループの方が不正をした人がずっと多く含まれていることがわかります。
なので、実験の結論としては、人は利益を得るためよりも、損失を回避するために不正をすることが多いということが確認されたわけですね。
まとめ
本稿では「利益獲得のためと損失回避のためのどちらでズルをしやすいのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 人は何かを得る喜びよりも、何かを失う痛みをずっと強く感じるようにできている(損失回避バイアス)
- そのため、人は何かを得るためにズルするよりも、何かを失うのを回避するためにズルをしやすい
ということです。
今回の研究はサイコロを使ったゲームでの出来事でした。これを現実で置き換えてみれば、
- 仕事で自分の評価を上げるため不正行為よりも、自分の失敗を隠すための不正行為の方が多い
- テストで良い成績を取るためにカンニングするよりも、赤点を取らないためにカンニングする人の方が多い
とかが言えるかもしませんね。
損失回避バイアスは人を生存させるために必要な機能ではあります。しかし、これに囚われてしまうと正しい判断ができなかったり、チャンスを逃してしまったりするので、自分にも損失回避バイアスがあるということは心のどこかで認識しておくと良いでしょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : The frame of the game: Loss-framing increases dishonest behavior