現状維持バイアスと偽の選択肢は、どっちが大きく選択に影響するのか?

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人は意外と合理的な選択が苦手で、色々なバイアスの影響を受けてしまいます。このバイアスは私たちに普段の選択にも大きく影響しているもので、

  • みんなが選んでいるものを良い選択だと考えてしまう
  • 値段が高いものが品質が良いと思い込んでしまう
  • 半額のような割引を見ると必要ないのに買ってしまう

など、心理学の研究では選択を歪めてしまう効果が色々と確認されているんですね。

そこで、本稿ではこれらの選択の歪みの中から

  • 現状維持バイアスと偽の選択肢はどちらが選択に大きく影響するのか?

を調べたセント・アンドルーズ大学の研究(*1)を見て行きたいと思います。この研究を参考に、選択の歪みを理解して、正しい選択をする方法について学んでいきましょう。

現状維持バイアスと偽の選択肢

まず現状維持バイアスと偽の選択肢がそれぞれどのような選択の歪みかというと、

  • 現状維持バイアス
    人は今の状態を維持する選択を選びやすい傾向があること。特にデフォルトの選択肢をそのまま選び続けやすくなってしまうことが分かっている。例えば、最初に付いてきたスマホの無駄なオプション契約をそのまま更新し続けてしまうとか、一度自分の物になったら急に手放すのが惜しくなってしまうとか。
  • 偽の選択肢
    偽の選択肢は、他の選択肢を選ばせるために作られた誘導用の選択肢のこと。例えば、通常コース2000円とプレミアムコース4000円の2択の選択に、VIPコース8000円が加わるだけで、プレミアムコースのコスパが良さそうに見えて選択率が向上するなど。

といった感じになっています。

これらの歪みがあると、現状を変えてより良い選択肢を選び取ることができなかったり、偽の選択肢に惑わされて選択肢の本当の価値を見誤ったりと、間違った選択を引き起こしてしまうわけです。

実験:どちらの影響が強いのか?

セント・アンドルーズ大学では宝くじを使った実験で、現状維持バイアスと偽の選択肢のどちらの影響が強いのかを測定しています。この実験では次の3種類の宝くじが用意されていて、参加者はこれらのくじの中からどれかを選ぶことになります。

  • 選択A:当選確率が高いけど金額が低いくじ
    25%の確率で2ドル
    25%の確率で4ドル
    50%の確率で6ドル
    と、最高の当選金額が6ドルと低いけど、確率は50%で高い、安定な選択肢
  • 選択B:当選確率が低いけど金額が高いくじ
    25%の確率で2ドル
    40%の確率で3ドル
    35%の確率で8ドル
    と、最高の当選金額が8ドルで高いけど、確率は35%と低い、リスキーな選択肢
  • 選択Aの偽:当選金額はAと同じだけど、確率が低いくじ
    50%の確率で2ドル
    5%の確率で4ドル
    45%の確率で6ドル
    金額の設定は選択Aと同じだけど、2ドルの確率が高く、明らかにAよりも悪い選択肢。
    この選択肢があることで選択Aがより良い選択に見えるようになる。

そして、現状維持バイアスと偽の選択肢の効果を測定するために

  • 1回目は選択Aと選択Bの2択から選ぶ
  • 2回目は選択Aと選択Bと選択A(偽)の3択から選ぶ
    (偽の選択肢の効果確認)
  • 3回目は選択Bのくじが最初に渡された状態で、選択Aと選択A(偽)に変えるかどうかを選ぶ
    (偽の選択肢と現状維持バイアスの効果確認)

の3ラウンドの実験を行っています。

結果:現状維持バイアスと偽の選択肢の強さ

各ラウンドで参加者が選んだ選択肢の割合は次のようになっています

1回目(A/B)2回目(A/B/A偽)3回目(B維持/A/A偽)
選択Aの割合66%54%37%
選択Bの割合34%45%61%
選択A偽の割合1%2%

これらの結果からわかることは、

  • 現状維持バイアスも偽の選択肢もない状態では、66%の確率で安定的な選択を選んでいた
  • Aを選ばせるための偽の選択肢を用意しても、その効果はほとんどなかった
    (逆にBの選択が少し増えてしまった)
  • 最初にBのくじを持っていて、Bへの現状維持バイアスがある状態では、Bの選択確率が34%→61%に向上した

ということ。つまり、結論としては

  • 偽の選択肢よりも、現状維持バイアスの方が選択にずっと強く影響する

ということが分かったわけですね。

まとめ

本稿では「現状維持バイアスと偽の選択肢の影響の強さ」についてお話ししました。

ポイントをまとめると、

  • 偽の選択肢の影響は今回の実験ではほとんどなかった
  • 現状維持バイアスはデフォルトの選択肢の選択確率を34%→61%に向上させる大きな影響があった

ということ。

現状維持バイアスは強い影響があるということで、選択をするときには現状維持につられていないか注意をしましょう。現状維持バイアスを回避するには、「今の自分が両方の選択肢を持っていなかったらどちらを選ぶか?」の視点で考えると良いでしょう。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Status Quo Bias and the Decoy Effect: A Comparative Analysis in Choice under Risk∗

Naoto

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