セルフトークは集中を維持するのにも役立つという研究
セルフトークとは自分自身に話しかけることで、スポーツの世界でよく行われるものです。具体的には、マラソン中に「まだまだ行ける」と自分を鼓舞したり、「左手は添えるだけ」みたいにフォームを言い聞かせたりといった感じ。
セルフトークには運動のパフォーマンスを向上させる効果が確認されていて、
- セルフトークでスキルの習得が早くなった
- セルフトークでより大きな筋力が発揮できた
- セルフトークで持久力が高まった
などが分かっているんですね。
そこで本稿では、セルフトークの研究として、
- セルフトークが運動のパフォーマンスを向上させる効果には、セルフトークによる集中力の高まりが関係しているのでは?
ということを調べてくれたカンブリア大学の研究を見てみましょう。
セルフトークとは
まず最初にセルフトークについて軽く説明しておくと、セルフトークには大きく2つの種類があります。
- モチベーション系
「全力で行く!」とか、「きっと勝てる!」みたいなモチベーションを高めるタイプのセルフトーク - 指示系
「前半はペースを抑える」とか、「相手のカウンターに注意する」みたいな、自分が行うべき動作を言葉にするタイプのセルフトーク
これらの2つは使い分けが重要で、全身運動の場合にはモチベーション系のセルフトーク、テクニカルな動作が必要になるような運動では指示系のセルフトークが有効だと言われています。ちなみにセルフトークといっても、実際に言葉を口に出す必要はなく、心の中で呟くだけでも大丈夫です。
実験:セルフトークを使うと集中力が乱れにくくなるのか?
カンブリア大学の研究では2つの実験により、セルフトークが運動のパフォーマンスを高めるのは、運動への集中力を高めてくれることが関係しているのかを調べています。どちらの実験でも、セルフトークを行うグループと、コントロールグループのパフォーマンスを比較しているのですが、
- 一つ目の実験:落ちてくる球を打ち返すパソコンのゲームのパフォーマンス
- 二つ目の実験:バスケの選手を対象にしたフリースリーのパフォーマンス(訓練期間6週間あり)
と行うタスクは異なっています。
そして、この研究の最も重要な点として、
- どちらの実験も、唐突に騒音が鳴って気が散ってしまう環境でパフォーマンスの測定を行う
という工夫がされています。つまり、騒音による集中力の低下をセルフトークで防げるのかどうかを確かめているわけですね。
結果:セルフトークとタスクのパフォーマンス
実験の結果を見てみると、まず一つ目のゲームのパフォーマンスでは
- セルフトークを行った場合:60.29スコア
- セルフトークなしの場合:58.48スコア
とセルフトークを行った場合の方が若干スコアが高い結果になっています。
さらに、二つ目のフリースローの実験の結果では、
- セルフトークを行った場合:65.90スコア
- セルフトークなしの場合:48.07スコア
と、こちらでもセルフトークを行った場合の方がスコアが向上していることが分かります。
しかも、スコアの差を見てみると実験1よりも実験2の方がパフォーマンスの向上がずっと大きい結果になっています。これがなぜなのかを考察してみると、実験2では6週間のセルフトークの訓練期間が設けられています。最初の2週間がモチベーション系のセルフトーク、次の2週間が動作指示系のセルフトーク、最後の2週間が自分で考えたセルフトークと、6週間でセルフトークをがっつりと自分のものにしているんですね。他の研究でも、セルフトークは継続すると効果が高まるということが分かっているので、この訓練期間の差が効果に現れたのでしょう。
まとめ
本稿では「セルフトークは集中力を維持するのにも役立つのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- セルフトークを行うと、騒音のような集中力が阻害されやすい環境でもパフォーマンスをうまく発揮できるようになる
ということ。
セルフトークは運動を対象に研究されていることが多いですが、今回の実験ではパソコンを使ったゲームのタスクでも集中力の維持が確認されています。なので、勉強や仕事などの集中力が必要な場面では、同じようにセルフトークが活用できるのではないでしょうか。ちなみに第三者視点のセルフトークで自己コントロール能力が向上するということも分かっているので、こちらも一緒に活用すると良さそうですね。
[参考文献]