ちょっとした指導でも、子供は困難な練習に挑戦しやすくなるという研究
以前のブログ「やり抜く力(Grit)が高い人は、普段の練習の質が良い説」でも取りあげましたが、一流のスポーツ選手や音楽家、チェスプレイヤーなど、トッププロになる人は限界的練習というトレーニングを行っています。
限界的練習とは、
- 自分の伸ばしたい能力が決まっていて、練習のゴールが明確である
- 自分の今の能力の限界を超えた難易度に挑戦している
- 練習の成果のフィードバックをもらう
- 練習でした失敗を修正して次の練習に活かす
の4つの特徴を持つトレーニング方法。挑戦→失敗→修正のサイクルを何回も繰り返すことで、効果的に能力を高められるわけです。
しかし、限界的練習にはモチベーション面で問題があって、”自分の限界を超える練習は、フラストレーションや失敗が多いから、辛いし楽しくない”と感じやすいんですね。将来トッププロになるような精神力を持つ子供なら限界的練習を好むかもしれませんが、普通の子供はその大変さから限界的練習を敬遠してしまいます。
そこで本稿では、
- 限界的練習についてちょっと指導するだけでも、子供は限界的練習に挑戦しやすくなるのでは?
ということを調べてくれた研究を見てみましょう。
実験:限界的練習の指導で、子供は伸びやすくなるのか?
ペンシルバニア大学らの研究では、25分ほどの時間をかけて限界的練習についての指導を行うことの効果を実験しています。この指導は2つのパートに分かれていて
- 限界的練習の説明
自分の弱点にフォーカスし、100%集中した練習を行い、練習のフィードバックをもらって改善するというサイクルを繰り返すことを教える。限界的練習が効果が低い普通の練習とどう違うのかを教える。
- モチベーション面の指導
成功には才能よりも努力が大切であることを教えたり、練習でフラストレーションを感じることは高い難易度に挑戦している証なので良いことだとと教える。こうした指導により、子供が限界的練習をやりたくなるメンタルを作る。
となっています。そして最後には
- 子供に限界的練習について学んだことと、どう活用するかの意気込みを書いてもらう
というプロセスも行っています。「言葉にすることは信じること」というように、実際に自分の言葉で限界的練習に書き出してもらうことが大切なんですね。
それでペンシルバニア大学の研究では、小学6年生から大学生までを対象に、この指導の効果があるのかを確かめています。効果の確認方法としては、
- 自由にYoutubeやFacebookで休憩できる環境で、難しい数学の問題に挑戦してもらったとき、どれだけ数学の問題に集中できるのか?
- 限界的練習の指導で最終的に学業の成績は向上するのか?
といったことが測定されています。
結果:限界的練習の指導で成績が向上するのか?
早速実験の結果を見てみると、限界的練習の指導を受けた生徒は、
- 限界的練習の大切さを信じる気持ちが高まっていた
- 練習中のフラストレーションへの耐性が高まっていた
というメンタル面の変化があり、その結果として
- 限界的練習に取り組む時間が増えた(Youtubeなどに費やす時間が減った)
- 学校の成績(GPA)も向上した
ということ。
25分ほどの指導であっても、限界的練習の方法や限界的練習に挑むモチベーション面を教えてあげれば、きちんと効果が出ています。しかも、後日のフォローアップで分かっていることとして、
- 限界的練習の指導の効果は、1ヶ月後の測定でも残存していた
ということ。
結果2:限界的練習の指導は誰でも効果があるわけではない
この実験では重要な注意点もわかっていて
- 成績が低い生徒は限界的練習の指導で、成績が有意に向上していた
- しかし、元々成績が良い生徒は、指導を受けても特に成績は向上しなかった
ということ。
元々成績が良い生徒は、指導を受ける前から、限界的練習やそれに必要なメンタルが身についているんですね。なので、指導をしたところで成績も変わらないということ。なので限界的練習の指導をするなら、練習にあまり集中できていない生徒や、簡単な練習ばかりして挑戦できていない生徒にフォーカスすると良いでしょう。
まとめ
本稿では「ちょっとした指導で、子供が難しい練習に挑戦するようにできるのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 限界的練習の方法やモチベーション面を指導することで、子供はより多くの時間を限界的練習に費やすようになり、学業成績も向上する
- この指導は成績が低い生徒には効果があるが、元から成績が高い生徒には効果はない
ということ。
一流のスポーツ選手が厳しい練習で自分を追い込んでいるのをみると、自分も練習を頑張ろうというモチベーションが湧きますよね。限界的練習に挑戦するモチベーションを高めるには、こうした自分の見本となる人を見つけることも大切なのかもしれませんね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Using Wise Interventions to Motivate Deliberate Practice