VRでスポーツスキルを鍛えると、現実でもスポーツが上手くなるのか問題
最近ではバーチャル・リアリティ(VR)のゲームも増えて、まるでゲームの世界の中に入り込んだような体験ができるようになっています。
そして、VR体験にはゲーム以外にも活用方法があって、その一つが VRによる体験訓練。
例えば、車の運転を体験できるVRゲームがあれば、実際に事故を起こす心配もなく、安全に運転の練習ができます。VRは現実世界では実現困難な状況の訓練にも適していて、飛行機の操縦、家事の現場での消防活動、手術の練習にも活用が期待されます。
しかし、VRは所詮バーチャルの空想の世界の出来事であって、VRで練習したことが本当に現実世界で役に立つのかは疑問が残ります。
そこで本稿では、
- VRでスポーツの練習をすると、実際にスポーツのスキルは向上するのか?
を実験してくれた研究を見てみましょう。
VR卓球
南オーストラリア大学の研究では、57人を対象に
- VRゲームで卓球の練習をすると、現実世界の卓球のスキルも向上するのか?
を実験しています。
今回使用したVRゲームはレベル1〜5のコンピュータ相手と卓球で対戦をする形式になっていて、1回30分のトレーニングを、週2回のペースで合計で7回行っています。
そして、これらのVRの訓練を終えた後で、現実世界の卓球スキルが測定されていて
- フォアハンドのラリーの成功率
- バックハンドのラリーの成功率
- フォアハンドとバックハンドの交互のラリーの成功率
- サーブの成功率
がテストされているんですね。
結果:VRで現実のスキルが向上するのか?
訓練の前後での卓球スキルの変化の結果を見てみると、
- VRの訓練を受けなかった人は、現実世界の卓球スキルはほとんど向上していなかった
(最初M=80.62→訓練期間後M=111.14) - VRの訓練を受けた人は、現実世界の卓球スキルが有意に向上していた
(最初M=92.46→訓練期間後M=189.93)
VRの訓練を受けていない人の卓球スキルの上がり幅がM=80→111で約31となっています。これは統計的に有意な向上幅ではないのですが、VRの訓練を受けていない人でも、1回目の測定での慣れで少しは向上するのかもしれませんね。
これに対してVRの訓練を受けた人は、M=92→189で2倍近いスコアの上がり幅となっています。これは効果量でいうとd=1.70という大きな訓練効果になっていて、VRが実際に現実世界のスキル向上に大きく役に立っていることがわかります。
注意点:
今回の研究には一つ注意点があって
- 今回VRで卓球の練習をしたのは、全員が卓球の初心者だった
ということ。
初心者は最初スキルの向上も早いので、これだけの大きな効果が得られたのも理解できます。残念ながら今回の研究ではわからなかったのは、VRがプロスポーツ選手など上級者の訓練でも効果があるのか?という点。VRにはどうしても現実世界とのズレがあります。このズレが原因で変なクセをつけてしまう可能性もあるので、VRでどこまでスキル向上ができるのかは注意しましょう。
まとめ
本稿では「VRで学んだ体験は、現実世界で役に立つのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- VRを使ってスポーツの練習をすると、実際に現実世界のスキルも向上した
- ただし、今回の実験は初心者を対象にしているので、上級者に効果があるかは不明
ということ。
VRカイジの鉄骨渡りをやると、実際に鉄骨渡りがうまくなるということです!
VRはまだあまり活用が進んでいませんが、専用のVR訓練シミュレータを作ったりできれば色々な分野で活躍しそうですね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Getting your game on: Using virtual reality to improve real table tennis skills