敬意を強く抱く人ほど、報復行動が多くなってしまうという研究

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敬意を抱くことは、お互いの協力関係を促進したり、上下関係を作ったりと、人間の社会にとっては必要不可欠なものです。文化によって敬意の対象が異なるのも面白い点で、年長者に敬意を抱いたり、正直な人に敬意を抱いたりと、国によって尊敬される人も様々です。外国に行くと思わぬことがとても失礼な行動に当たってしまうこともありますよね。

しかし、どんなことにも良い面と悪い面があるように、「敬意は踏みにじられたときに報復の気持ちに繋がりやすい」という欠点が考えられます。例えば、正直な人に敬意を抱く人は、嘘をつく人に厳しくなってしまうことがあり得るということですね。

そこで、アムステルダム自由大学の研究(*1)が、

  • 敬意を強く抱く人ほど、報復行動は増えやすいのか?

について実験してくれてしましたので、本稿ではその中身を見ていきましょう。

敬意と報復の関係

この研究では敬意と報復の関係を調べるために、226人の参加者を集めて実験を行っています。この研究はオランダの研究なのですが、敬意の文化的な違いの影響も確認するために、

  • モロッコ系オランダ人
  • トルコ系オランダ人

の2つの文化系の人を集めています。この2つを比較すると、トルコ系の方が誠実さを大切にする文化で、より敬意を抱きやすい文化となっています。

そして、敬意と報復の関係を調べるために2つのゲームが実施されています。

  • 最終通牒ゲーム
    2人組のペアになって、片方が10枚のチップを2人でどう分けるのかを決める。もう一人はそのチップ配分を拒否することができるが、拒否するとどちらも1枚もチップをもらえない。
  • 正義ゲーム
    2人組のペアになって、最初はお互いに200枚のチップを持っている。テイカー(奪う人)役の人は相手から100枚までチップを奪うことができる。その後、奪われた側の人は、100枚までチップを払うことで、払ったチップの3倍のチップを罰としてテイカーに支払わせることができる(自分がもらえるわけではない)。これをテイカー役を変えて3回繰り返す。

最終通牒ゲームでは自分の利益を犠牲にすることで相手の利益もなくす報復ができますし、正義ゲームでは自分のチップを払って相手に3倍の報復ができるという設計になっているわけですね。

それで、敬意の強さによる報復行動の多さを調べるために、ゲームを実施する前に

  • 参加者の半分は事前に敬意に関するアンケートに答えて敬意の意識を高める
  • 参加者のもう半分は特に敬意は高めない

というプロセスも行っています。

結果

それで結果がどうだったのかというと、まず最終通牒ゲームでは、

  • 敬意を高めたグループも、敬意を高めなかったグループも報復行動をとる確率は変わらなかった
  • モロッコ系オランダ人とトルコ系オランダ人で報復行動をとる確率は変わらなかった

ということ。つまり、最終通牒ゲームでは敬意が高さや文化の違いは報復行動の多さには関係しなかったということですね。

一方で正義ゲームの結果を見てみると

  • 敬意を高めたグループは、敬意を高めなかったグループよりも報復行動をとる確率が高かった
  • モロッコ系オランダ人とトルコ系オランダ人で報復行動をとる確率は変わらなかった

ということ。正義ゲームでは敬意が高い場合に報復行動は多くなるが、それに文化の違いは関係はないという結果になっています。

2つのゲームで異なる結果になってしまっていますが、これらの結果をまとめると、場合によっては敬意の強さが報復行動につながってしまうこともあるということでしょう。そして、その場合が何かは知るためには、2つのゲームの違いを考えていく必要があります。

なぜ2つのゲームで違いが出たのか?

最終通牒ゲームはこれから貰えるチップの配分を決めているのに対して、正義ゲームでは既に持っている自分のチップが奪われるという違いがあります。つまり、正義ゲームは直接的に自分が攻撃されているわけで、自分への敬意が踏みにじられている感覚がより強いわけですね。

過去の研究では、相手からの敬意の踏みにじりが一定のラインを超えてしまったときに、敬意が報復行動をグッ増やしてしまうと分かっているようです。なので、

  • 自分のものが奪われるなど、直接的に自分の敬意が踏みにじられたときに、特に報復行動は増えやすい

ということですね。

まとめ

本稿では「敬意が報復を増やしてしまうとき」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 敬意を強く抱いていると、直接的にその敬意が踏みにじられたときに、報復行動が増えてしまう。
  • この効果はトルコ系オランダ人とモロッコ系オランダ人という文化の違いがあっても同じだった。

ということ。

敬意を抱くということは、ある価値観を大切にするということで、本来は良いものです。しかし、ときには敬意が敵意に変わってしまうことがあるということで、現代の多様性の高い社会では特にこの点に注意して、相手の価値観にも寛容になれるといいですね。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Where to draw the line: honor mindset increases retaliation in response to unfair behavior

Naoto

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