座りっぱなしを防ぐのにもデフォルトナッジが有効だぞという研究
本稿で注目するのはデフォルトナッジです。デフォルトナッジが何かというと、初期設定を望ましい行動の側にしておくこと。例えば、有名なのはドナーの意思表示で、
- デフォルトがドナーにならない方で、「ドナーになる人はチェックをつける」形式の国では、ドナーの提供率は4〜30%と低くなっている
- デフォルトがドナーになる方で、「ドナーになりたくない人はチェックをつける」形式の国では、ドナーに提供率は99%近くの高水準になっている
ということ。つまり、人はデフォルトの選択肢をそのまま選びやすいので、デフォルトを望ましい行動にするだけで、意志力を使わずともその選択が選びやすくなるわけですね。
デフォルトナッジの活用
このデフォルトナッジは様々な選択の場面で活用できて、
- ダイエットでは、目の届く範囲にお菓子を置くのをやめて、代わりに健康に良いナッツや果物を置くようにする
- 貯金では、毎月一定額が自動で貯金口座に振り込まれるようにしておいて、どうしてもお金が必要ならその口座から戻すようにする
といった工夫ができます。
他にも色々と活用方法はあるかと思いますが、ポイントは、日常のデフォルトの行動を少し変えるだけで、人の生活習慣が大きく改善する可能性があるということです。
デフォルトナッジと座りっぱなし
ユトレヒト大学の研究 (*1)ではデフォルトナッジの活用法として
- デフォルトナッジで座りっぱなしの時間を減らすこともできるか？
を実験してくれています。座りっぱなしは様々な病気のリスクを高める悪い習慣の一つで、これが改善できれば健康もグッと高められるわけです。
それでこの研究がどのようにデフォルトナッジの効果を実験したのかというと、
- 高さを自由に変えられるデスクを使用している行政機関を対象に、デフォルトの机の高さをスタンディング用にする
- 2週間だけこのデフォルトで606人に仕事をしてもらって、立って仕事をする割合がどれだけ増えるのかを測定する
- 2週間後と2ヶ月後の２回のフォローアップで、効果が持続しているのかも測定している
という感じ。デスクの高さのデフォルトを立ち仕事用にすることで立ち時間を増やすという、すごくシンプルなデフォルトナッジになっていますね。
結果：デフォルトナッジの効果
早速結果を見てみると
- デフォルトを変える前の初期の立ち仕事の割合は1.82%だった
- デフォルトがスタンディングの期間の立ち仕事の割合は13.13%に増えた
- 2週間後のフォローアップでは立ち仕事の割合は10.10%だった
- 2ヶ月後のフォローアップでは立ち仕事の割合は7.82%だった
ということ。
最初は1.82%でデスクがほとんどスタンディングで活用されていないのに対し、デフォルトを変えるだけで13.13%まで割合が向上できています。2週間後と2ヶ月後のフォローアップの結果からは、デフォルトの設定をやめると効果が時間とともに減少してしまうことがわかります。しかし、2ヶ月後でもまだ効果は消え去っていないので、一回スタンディングに慣れたことで長く続ける人も現れているのかもしれませんね。
結果2：参加者の反応
デフォルトナッジが座りっぱなしを防ぐのに効果があることがわかりましたが、実際に取り入れるには参加者が嫌がらないかが気になるところ。この点について、実験の最後にデフォルトの高さが変えられてどうだったのかの反応も聞き取られていて、
- デフォルトが高くされるのを嫌がったのは11%だけだった
- デフォルトを高くするのが良い考えだと賛同してくれたのは56.5%で過半数を超えていた
ということが分かっています。
今回の研究のように、高さの調整で立ちでも座りでも使える机で、デフォルトを立ち用に設定するだけでは、嫌な意見はあまり出ないようです。「健康のために良い効果的なアイデアだと思う」といった賛同の意見も多く得られているので安心ですね。
まとめ
本稿では「座りっぱなしを防ぐのにデフォルトナッジは使えるのか？」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- デスクの高さのデフォルトをスタンディング用にするだけで、立って仕事をする割合を1.82%から13.13%に増やせた
- デスクの高さのデフォルト変更は、56.5%の参加者から賛同されていて、嫌がる人も少なかった
ということ。
座りっぱなしを防ぐためには、リマインダーをセットするとか、立つことの健康効果を教えるとかの施策も試されているようですが、それほど効果は出ていないようです。デフォルトナッジは意思力をあまり必要とせずに、自然とその行動を増やせるので、健康に悪いデフォルトの行動は健康に良いデフォルトに変えていきましょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : I’m still standing: A longitudinal study on the effect of a default nudge