仕事のパフォーマンスを高めたいなら「公平・謙虚さ」も大切という研究
仕事のパフォーマンスが高いのはどんな人か?については色々と研究がされていますが、それら研究の多くは「認知能力」と「ビッグファイブ(性格の5大要素)」が仕事のパフォーマンスとどう関係しているのかを調べています。
しかし、認知能力に関して言えば、普段私たちが行っている仕事は、心理学の実験などで行われる認知テストなどよりもずっと複雑です。例えば、他の人とうまく協力する必要があったり、その状況に応じて適切な判断をしたりしなければいけませんよね。
一方でビッグ5性格分析は、人の性格を誠実性・開放性・同調整・外向性・神経性傾向の5つの要素で分析しますが、仕事のパフォーマンスを予測するのにこの5つの要素だけでは物足りないということがあります。
そこで、「認知能力」と「ビッグファイブ(性格)」に別の要素もプラスすれば、仕事のパフォーマンスをもっと正確に分析できるんじゃないか?という考えの研究もあるんですね。
そしてそれらの研究の中に、「公平・謙虚さ」が仕事のパフォーマンスを予測する第6の性格要素になるという面白い研究があったので、本稿ではその内容を参考に仕事における公平・謙虚の大切さをお話ししていきたいと思います。
公平・謙虚さとは?
まず公平・謙虚の定義から入ると、
「公平で謙虚な人とは、他人に対して公平で、自己中心的にならずに他人のために行動する謙虚さを持ち合わせた人」
ということ。もう少し具体的にどんな人かというと、
公平で謙虚な人は
- 他人と公平で誠実に向き合う
- 他人から尊敬される行動をする
- 自分の欠点を認めることができる
- 貪欲さや他人から搾取しようという気持ちがない
といった感じですね。
ビッグファイブの同調性とどう違うのか?
ちなみにビッグファイブ性格分析の中には、「同調性」という一見すると公正・謙虚さと似ている要素がありますが、この2つは厳密には少し違うニュアンスとなっています。
それではどう違うのかというと、ビッグファイブの同調性は「他人の意見やルールに同調する性格」といったニュアンスが強く、同調性が高い人は周りから反対された場合には率先して他人を助けようとはしません。
一方で、公平・謙虚な人は他人の意見は関係がなく、「周りから反対されようと、他人のために行動できる人」というニュアンスになっています。
「公平・謙虚さ」と「同調性」の相関もr=0.31と低めの値になっているので、この2つの要素は全く関係ないわけではないけれど、きちんと別々の意味を持った要素として区別ができるものです。
公平・謙虚さと仕事のパフォーマンス
それで、「認知能力」と「ビッグファイブ」に「公平・謙虚さ」を追加した場合に、これらの要素と仕事のパフォーマンスがどのように関係しているのかを調べてくれた研究(*1)があります。
この研究では221人から「仕事のパフォーマンス」と「認知能力」と「公平・謙虚さを含む性格」のデータを集めて分析を行なっています。
その結果として分かったことは大きく3つあるので順に見ていきましょう。
結果1:ビッグファイブとの相関
まず公平・謙虚さとビッグファイブの要素の相関がどうだったのかというと
- 同調性との相関r=0.32
- 神経性傾向との相関r=0.25
- 外向性との相関r=−0.09
- 誠実性との相関r=0.05
- 開放性との相関r=0.01
ということ。
どの要素とも相関は小さめになっているので、
- 公平・謙虚さはビッグファイブとは独立した6つ目の性格の要素と言える
ということが分かっています。
結果2:仕事のパフォーママンスとの関係
次に仕事のパフォーマンスと公平・謙虚さの関係がどうだったのかというと、
- 「認知能力」と「ビッグファイブ」に加えて「公平・謙虚さ」を考慮することで、仕事のパフォーマンスの予測精度が4%向上した!
ということ。つまり「公平・謙虚さ」は仕事に有意に関係する要素であることが分かったということです。
さらに、公平・謙虚さを含む性格要素が仕事のパフォーマンスに与える影響の強さを%で表すと
- 誠実性が66.12%
- 外向性が12.04%
- 公平・謙虚さが9.22%
- 神経性傾向が6.69%
- それ以外は3%以下
ということで、仕事のパフォーマンスにとって、公平・謙虚さは3番目に重要だということなんですね。
ちなみにダントツ1位の誠実性は「責任感が強く真面目で勤勉な性格」のことです。以前から誠実性は仕事の成功に大切な要素とは言われていましたが、66%にもなるとは驚きですね。
結果3:認知テストの結果は関係ない
最後に、この実験では認知テストも行なっていて、その結果が仕事のパフォーマンスとどう関係しているのかも調べています。
その結果は
- 「認知能力」と「ビッグファイブ」に「認知テストのパフォーマンス」を加えても、仕事のパフォーマンスの予測精度は向上しなかった
ということ。つまり認知テストの良し悪しは実際の仕事とは関係ないということですね。
やはり認知テストのような局所的な能力は、仕事のように複雑に絡み合ったタスクの予測には物足りないということなんでしょう。
まとめ
本稿では、「仕事における公平・謙虚さの大切さ」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 仕事のパフォーマンスを予測するのには認知能力やビッグファイブ以上の要因分析が必要である!
- 第6の性格要素として「公平・謙虚さ」が仕事のパフォーマンスの予測精度を上げてくれる!
- 公平・謙虚さは誠実性・外向性に続いて3番目に大切な性格要素である!
ということ。
仕事では公正で誠実な人の方がパフォーマンスが高いということで、自分だけの仕事のパフォーマンスを考えるのでなく、チーム全体のパフォーマンスを上げるためにチームのために何をできるのかを考えるのが大切なのかもしれませんね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1: The Incremental Validity of Honesty–Humility Over Cognitive Ability and the Big Five Personality Traits