知の深化と探索が特に効果があるのはどんな会社なのか?の研究

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イノベーションを起こすには、知の深化と探索が重要だと言われています。

知の深化とは、すでに会社が持っている分野の知識をさらに深めて行こうというもの。例えば、

  • 自社が開発している製品の技術をさらに極めて、製品の性能をもっと向上しよう
  • 製品の製造プロセスを改善して、もっとコストを低く抑えよう

とか、そういう方針の活動になります。

知の探索とは、今まだ持っていない新しい分野の知識を習得して、知識の幅を広げようというもの。こちらの活動は

  • 新しい分野の知識を学んで、新規事業を開拓しよう
  • 新しい分野の知識と既存の技術を組み合わせて、全く新しい機能を製品に搭載しよう

という感じの活動になります。

それで、イノベーションを生み出すには知の深化と探索を両方バランスよく実践することが大切だと言われています。知識の幅を広げる探索と、知識を深める深化は、お互いに補い合ってイノベーションを生むんですね。

しかし、現実的な問題としてリソースは限られているので、既存の仕事をしつつ、深化と探索にどれだけのリソースを割り振るべきかは非常に難しい問題です。

そこで本稿では、

  • 会社の状況や特徴によって、知の進化と探索の効果はどのように変わるのか?

について調べてくれた研究を見てみましょう。

知の進化と探索と会社のパフォーマンス

今回注目する研究(*1)では、知の深化と探索の効果を検証した研究結果102件をメタ分析まとめています。これらの研究では合計で41,298ケースのもサンプルが含まれるということで、規模的にも信頼度が高めの研究と言えるでしょう。

それで、この研究では

  • 深化と探索が会社のパフォーマンスをどれだけ向上してくれるのか?

という視点で分析しているのですが、この効果に影響する要因として

  • 会社のリソースは豊富か
  • 会社がトップダウンの中央集権的な構造か
  • 会社内で柔軟にリソースの割り振りを変えて協力しあっているか
  • 会社は他社との競争が激しい状況にあるか
  • 会社は将来の不確実性が高い状況にあるか
  • 会社はどの文化圏にあるか(アメリカ・ヨーロッパ・アジア)
  • 会社の規模はどのくらいか
  • 会社の分野はテクノロジー関連か

が考慮されています。

結果: 知の進化と探索の効果

メタ分析の結果としてわかったことは、まず最初に全体の平均として

  • 知の深化は会社のパフォーマンスを向上していた(M=0.28)
  • 知の探索は会社のパフォーマンスを向上していた(M=0.25)

ということ。

基本的には知の深化と探索は会社にとって良いものであることが確認されています。

結果2:どんな会社が効果が大きかったのか?

それでは具体的にどんな会社が知の進化と探索の効果が大きかったのかを順番に見ていきましょう。

リソースの豊富さ

  • 会社のリソースが豊富であるほど、知の深化はパフォーマンス向上は大きかった(β=0.55)
  • 会社のリソースが豊富であるほど、知の探索はパフォーマンス向上は大きかった(β=0.75)

リソースの余裕があるほど、知の深化と探索の効果も高まっています。リソースに余裕がないと、既存の仕事に影響が出てしまうのでしょうがないのかもしません。

会社の構造

  • 会社が中央集権的であるほど、知の深化のパフォーマンス向上は大きかった(β=0.63)
  • 会社が中央集権的かどうかは、知の探索には有意な効果はなかった

中央集権的な会社は、既存の技術を深掘りして極めていくことに有意なようですね。

柔軟なリソース配分やコラボレーション

  • 柔軟なリソース配分は、知の深化には有意な効果はなかった
  • 柔軟なリソース配分がされる会社は、知の探索のパフォーマンス向上が大きかった(β=0.45 )

柔軟に人が入れ替わってコラボするような会社では、幅広く知識を広げることがパフォーマンスの向上に役立つようです。探索で広げた知識を、柔軟に再配置することで、知識のコラボを生み出しやすいのでしょう。

他社との競争

  • 他社との競争が激しい会社は、知の進化でパフォーマンスが低下してしまった(β=−0.51 )
  • 他社との競争が激しい会社は、知の探索でパフォーマンスが低下してしまった(β=−1.02 )

競争が激しい場合には、深化と探索にリソースを割くことはパフォーマンスの低下につながってしまっています。競争が激しいということは、他社に対して強い競争優位性を持てていない状況が想定されます。そんな厳しい状況では、知の深化で既存の技術の改善するだけで優位性を得るのは難しいですし、知の探索をしてもすぐに良いアイデアが出てくるわけではありません。戦略の取り方としては一番難しい状況かもしれませんね。

不確実性の高さ

  • 不確実性の高い状況では、知の深化のパフォーマンス向上が大きかった(β=0.50 )
  • 不確実性の高い状況では、知の探索のパフォーマンス向上が大きかった(β=0.50 )

不確実性の高い状況では、知の深化も探索もパフォーマンスの向上に役立っています。新しく立ち上がったばかりの事業など、まだまだ先行きのわからない状況でこそ、知の深化と探索は重要なようですね。

その他の会社の特徴

  • アメリカやヨーロッパなどの西洋圏の企業の方が、アジアなどの東洋圏の企業よりも、知の深化と探索のパフォーマンス向上が大きかった
  • 会社の規模が大きい方が、知の進化と探索のパフォーマンス向上がやや大きかった
  • テクノロジー関連の会社の方が、知の進化と探索のパフォーマンス向上が大きかった

日本企業は既存の事業で手堅く稼いで、新しい事業を生み出すのが苦手なイメージがあります。こうした文化の違いが知の深化と探索の効果にも影響しているのかもしれません。

まとめ

本稿では「知の深化と探索が特に効果が高い会社の特徴」についてお話ししました。

ポイントをまとめると、

  • 知の深化と探索は基本的には会社にパフォーマンスを上げてくれる
    (競争の激しい場合のみマイナスになることもある)
  • リソースの豊富さや企業の規模や構造、リソース配分の柔軟性など、会社の特徴や状況によって、知の深化と探索の効果も変わってくる

ということ。

知識の深化と探索はバランスよく両方行うことが大切です。私ももっと幅広いことに興味を持って、知識の幅を広げないとなを思いました。これまで全く興味がなかった分野の本を読んでみるとかも良さそうですね。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Factors affecting the effect of exploitation and exploration on performance: A meta-analysis

Naoto

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