リモートワークの良い面と悪い面についてメタ分析でまとめてくれた研究
コロナウィルスの影響もあって、自宅からリモートワークをする人も増えていると思います。
それで実際にリモートワークを始めてみた人の感想を聞いてみると、「通勤時間が無くなって効率的だ」とか「周りに人がいなくて集中できる」という良い感想あれば、「コミュニケーションが不足しがちだ」とか「雑談の楽しみが減って孤独感を感じる」みたいな悪い感想もあります。
そこで、本稿ではこれらのリモートワークの良い効果と悪い効果はどれくらい影響があるのかをペンシルバニア大学の研究(*1)を参考にみていきたいと思います。
リモートワークの良い面と悪い面
リモートワークの研究では主に3つの論点が議論されています。
- ①リモートワークで自律が高まるのでは?
自律とは自分で主体的に仕事に取り組む姿勢のようなイメージです。自律している人ほどモチベーションや仕事のパフォーマンスが高く、仕事満足度も高い傾向があるなど、自律は仕事においてとても大切なポイントなんですね。それで、リモートワークで自宅で働けるようになると、仕事のスケジュールを自分で調整がしやすくなったり、自分の役割や求められる成果が明確になって、それを達成しようと自分で仕事をコントロールするようになることで自律が高まることが期待できます。
- ②仕事-家族間の摩擦が減るのでは?
仕事が忙しくなって家族サービスが減ると家庭の雰囲気が悪くなってしまいますし、逆に家庭を優先しすぎると仕事に力が入らずに良いパフォーマンスが発揮できません。リモートワークは良い意味で仕事と家庭の境界を曖昧にしてくれるので、仕事と家庭をうまく両立できるようになることが期待できます。
- ③リモートワークで職場の人間関係は薄れてしまうのでは?
最後の3つ目はリモートワークの悪い効果で、リモートワークになると職場の人とのコミュニケーションが減ってしまいますし、直接顔を合わせる機会も減ってしまうので、職場の人間関係が薄れてしまう懸念があります。
どれもリモートワークの効果として中心的な大切なことです。そこで気になるのが、リモートワークには良い効果と悪い効果の両方があるとして、総合するとどちらの方が強いのかですね。
リモートワークの良い効果と悪い効果
それでペンシルバニア大学の研究では先ほどの3つの論点
- リモートワークで自律は高まるのか?
- リモートワークで仕事と家庭の摩擦が減るのか?
- リモートワークで職場の人間関係は薄れてしまうのか?
についてと、それらの波及効果として
- 仕事の満足度は向上するのか?
- 仕事のパフォーマンスは向上するのか?
- 仕事を離職する気は減るのか?
- 仕事の役割の不明確さは減るのか?
- 仕事のキャリアの見通しは改善するのか?
を、46件の先行研究に及ぶ12,883人分のデータをメタ分析することでしっかりと調べてくれています。
結果:リモートワークの3つの論点
早速結果を見ていくと、まず最初にわかったのは
- リモートワークで自律はまあまあ高まる(効果量d=0.39)
- リモートワークで仕事と家庭の摩擦は少し減る(効果量d=−0.23)
- リモートワークで上司との人間関係は少し改善する(効果量d=0.23)
- リモートワークで同僚との人間関係は変わらない(効果量d=0.00)
ということ。
基本的にはリモートワークには良い効果があり、人間関係にもそれほど悪影響はないという結果になっています。上司との関係については改善しているのは面白いですね。ただし、人間関係については後で悪化してしまうケースが分析されているのでそちらでもう少し詳しくみていきたいと思います。
結果:リモートワークの波及効果
次にリモートワークの波及効果としては、
- リモートワークで仕事満足度が少し改善していた(効果量d=0.18)
- リモートワークで自己評価による仕事のパフォーマンスは向上していなかったが、上司評価による仕事のパフォーマンスは向上していた(効果量d=0.36))
- リモートワークで離職する気は少し減っていた(効果量d=−0.17)
- リモートワークで役割の不明確さやそのストレスは減っていた(効果量d=−0.23)
- リモートワークではキャリアの見通しは改善しなかった(効果量d=0.01)
ということ。基本的に悪い効果はなく、リモートワークには良い効果が満載であることが分かります。
結果:リモートワークの頻度
それでリモートワークの効果を考える上で外せないのがリモートワークの頻度です。週に5日間毎日リモートワークをする人もいれば、週に2日だけで残りの3日はオフィスに出勤するという人もいて、この2つでリモートワークの効果の強さは変わりそうですよね。
それでこの研究が頻度を考慮して分析した結果を見ると
- 自律については頻度に関係なく向上する
- 仕事と家庭の摩擦はリモートワークの頻度が増えるほど減っていく
- 同僚との人間関係はリモートワークの頻度が増えるほど薄れてしまう
ということ。なので、頻度が増えるほと家庭を大切にできる反面、職場の人間関係が薄れてしまうというトレードオフになっているわけですね。先ほど全体を平均すると職場の人間関係にはそれほど悪影響はないという結果が出ていましたが、週に2.5日以上になるとその人間関係にも悪影響が出始めてしまうということで注意が必要です。
まさにコロナで出社ができなくなったときによく言われた「コミュニケーション不足や孤独感」はリモートワークの頻度が高かったからこそ発生した問題でしょう。なので、リモートワークはうまく活用するには、頻度の調整やリモートで人間関係を向上させる取り組みが必要なのかもしれませんね。
まとめ
本稿では「リモートワークの良い面・悪い面」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- リモートワークで自律が向上して、仕事の満足度やパフォーマンスが向上する
- リモートワークの頻度が高くなるほど仕事と家族間の摩擦が減る
- 逆にリモートワークの頻度が高くなるほど職場の人間関係は薄れてしまう
ということですね。
リモートワークには基本的には良い効果が満載ですが、頻度が多くなると職場の人間関係が薄れてしまうことがネックということですね。もう一つ注意点として、リモートワークの良い効果のポイントは、自分で自由に仕事をコントロールできる範囲が広がることなので、リモートワークなのに監視されたり、オフィスで働いているとき以上に成果を細かくチェックされたりすると、逆効果になってしまう可能性もあるということです。なので、これらの注意点を考慮してリモートワークは活用していきましょう。
[参考文献]