テロメアが短くなるほど認知機能は低下してしまうのか?
テロメアとは、細胞内にある染色体DNAの両端部分のことで、染色体を保護する働きがあります。DNAは2本の線がぐるぐると螺旋状にからみあった構造をしていますが、この2本の線がほつれてバラバラにならないように、両端をテロメアがキャップして保護してくれているわけですね。
しかし、テロメアは細胞分裂を繰り返すごとに徐々に短くなっていくことが分かっています。つまり、歳をとるほど残されたテロメアの長さが短くなっていくということで、テロメアの長さは細胞の老化の進み具合を表すと言われています。
そこで、本稿では
- テロメアが短くなるほど、認知能力は低下していまうのか?
を分析してくれたメリーランド大学の研究(*1)を見てみましょう。
テロメアと認知能力
人は歳をとると認知能力が低下してしまいます。記憶力が低下して物忘れが激しくなったり、若い時ほど頭が回らなくなってしまったりとか、よく聞く話ですよね。そのため、テロメアの短さが老化の進行を示すのでれば、テロメアが短い人ほど認知能力は低下してしまうことが考えられます。
そして、テロメアが短くなるスピードは人によって変わるもので、例えば不健康な生活を送っていたり、ストレスの多い生活を送っていると、老化のスピードが速くなってテロメアも短くなってしまいます。
つまり、同じ年齢でもテロメアが長くて若々しい人と、テロメアが短くて老けて見える人では、認知能力にも差が出てしまっている可能性があるわけですね。
実験:テロメアの長さと認知能力
メリーランド大学の研究では、上記の点を実験により確かめてくれています。どのような実験かというと、
- アフリカ系アメリカ人と都会に住む白人系のアメリカ人を合わせて325人が対象
- 参加者の経済的な豊かさがテロメアと認知能力に与える影響を考慮
(貧乏な人ほどストレスが多くてテロメアが短いことの負の効果が大きいのか?を確かめるため) - 認知能力を確かめるために、6つの認知テストを実施
という感じになっています。
ちなみに、認知テストで調べられた認知能力の種類としては
- 実行機能
- 記憶力
- 非言語記憶
- 認知の柔軟性
- 注意力
- ワーキングメモリー
- 言語学習能力
- 言語の流暢性
と多面的に測定されています。
結果:
実験の結果を見てみると、
- アフリカ系アメリカ人と白人系アメリカ人の両方で、貧しい人ほどテロメアが短いことにより実行機能と非言語の短期記憶が低下していた
- 白人系アメリカ人のみで、貧しい人ほどテロメアが短いことにより注意力が低下していた
- 言語学習能力や言語の流暢性などの他の能力は、テロメアが短くても低下はしていなかった
ということ。
テロメアが短くなることで一部の認知機能が低下してしまっていて、経済的に貧しい人ほどこの効果が大きいという結果になっています。都会に住む白人系の人の方が、アフリカ系アメリカ人よりも、テロメアが短いことにより認知能力の低下が大きく出たというのも面白いですね。
これらの結果からすると、「貧しくなるほどテロメアが短くなりやすくなる。すると認知能力まで低下してしまい、貧困から抜け出すのがさらに難しくなってしまう」ということがあり得ると思います。なので最低限の生活を保証してあげることは、認知能力の低下の観点から見ても大切なのかもしれませんね。
まとめ
本稿では「テロメアの長さと認知能力」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 経済的に貧しい人ほど、テロメアが短くなると一部の認知能力(実行機能や非言語記憶 )が低下してしまう
- そのため、貧しい人ほど認知能力が働かなくなって、貧困から抜け出すのが困難になってしまうこともあり得る
ということ。
テロメアを長く維持するには、健康的な食生活や適度な運動などの生活習慣を整えたり、瞑想を取り入れてストレスを減らすなどを心がけると良いでしょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Telomere Length and Cognitive Function: Differential Patterns Across Sociodemographic Groups