経済的なショックがあると、認知能力は低下してしまうのか?

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人の認知能力は経済的な豊かさに左右されることが分かっています。裕福な人と比べて、貧しい人の方が日常で困難やストレスを抱えやすく、認知能力が低下しやすいんですね。そのため、借金を抱えている人は、認知能力が低下していてお金の使い方をうまく判断することができないなど、負のループで貧しさから抜け出しにくくなってしまったりします。

そして本稿で注目するのは、

  • 経済的なショックも認知能力を低下してしまうのか?

ということ。ここで言う経済的なショックとは、会社の都合で給料が下がってしまったとか、株で大損して資産が半減してしまったとか、自分の経済状況が悪化してしまうことを指しています。

この点について、コロンビア国立大学の研究(*1)では、

  • 将来の収入の低下してしまうショックと、これまで稼いだ資産が減るショックはそれぞれ認知能力を低下するのか?

とショックを2種類にわけで実験していました。本稿ではこの研究を中身を見ていきたいと思います。

経済ショックと認知能力の低下

コロンビア国立大学の研究(*1)では、282人を対象にタスクを用いて経済ショックの影響を調べています。どのような実験かというと、

  • 2桁の数字の合計を求めるタスクを行い、正解数に応じて資産が獲得される
  • このタスクは2ラウンド行うが、ラウンド間で次のいずれかの経済ショックが与えられる
    コントロールグループ(何もショックはない)
    収入ショック(2ラウンド目に獲得する資産のレートが半減してしまう)
    資産ショック(1ラウンド目に獲得した資産が半減してしまう)
    収入資産ショック(②と③の両方)
  • タスクを行う中で認知能力として短期記憶と流動性知能が測定され、経済ショックによりどれだけ低下しているのかが分析される

といった感じです。

ちなみに流動性知能とは、論理的思考や問題解決能力などを通じて、新しいタスクでもこれまでの知識を活用して解決できるような知能のことを言います。

結果:2種類の経済ショックと認知機能の低下

実験の結果を見てみると、

  • 将来の収入が減る経済ショックでは認知能力の低下はほとんど低下しなかった
  • 資産が減る経済ショック、あるいは資産と収入両方の経済ショックでは、認知能力は有意に低下していた

ということ。

つまり、収入が減るよりも、今まで蓄えた資産が減ってしまうショックの方が、認知能力を大きく低下してしまうということです。将来の収入と違って、これまで蓄えた資産は既に自分のものになっているので、それを奪われるショックの方がインパクトが大きいのかもしれませんね。

結果(おまけ)

この実験では、経済的なショックによって、タスクでズルをする数が増えるのか?と、損失を回避する傾向が強くなるのか?についても測定しています。

その結果を見てみると

  • 経済的ショックがあっても、ズルをする数は増えなかった
  • 経済的ショックがあっても、損失を回避する傾向は強くならなかった

ということ。

経済状況が悪化すると反社会的な行動が増えるという研究結果もあるようですが、今回の実験では特にズルが増えたりはしなかったようです。

まとめ

本稿では「経済的なショックがあると、認知能力は低下してしまうのか?」についてお話ししました。

ポイントをまとめると、

  • 将来の収入が減るショックはそれほど認知能力には影響しない
  • これまで蓄えた資産が減ってしまうショックは認知能力を有意に低下してしまう

ということ。

例えば、株やビットコインで大損したときや、思わぬ大きな出費があったときに、認知能力は低下してしまうでしょう。株の場合には認知能力が低下して、ズルズルと損切の判断ができないなんてこともあり得るので、大きな損をした時ほど頭を冷静に保つことを心がけましょう。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Do Negative Economic Shocks Affect Cognitive Function, Adherence to Social Norms and Loss Aversion?

Naoto

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