ポジティブ感情があると損失の選択でリスキーになるという研究
本稿のテーマは「感情がリスクの選択に与える影響」についてです。
例えば、次の2つの選択があったらどちらを選びますか?
- 確実に1000円貰える
- 40%の確率で何ももらえないけど、60%の確率で2000円貰える
この場合は、2つ目の選択肢の方が期待値が高いので、合理的に選択するなら下の選択肢が正解になります。しかし、感情的には40%の確率で何ももらえないというリスクが心にひっかかると思います。
このように、人は常に合理的な選択ができるわけではなく、選択に感情が作用してしまうことがあります。
そこで本稿では、感情によってリスクの選択の仕方がどのように変わるのかについて、ノースウェスタン大学らの研究(*1)を参考にお話ししていきたいと思います。
感情とリスクの選択
ノースウェスタン大学らの研究では、65人に繰り返して選択を行ってもらってその傾向を調べています。
ここでいう選択とは次のようなもので、
- 利益の選択
「確実に20ドルもらう」または、
「20%の確率で何ももらえず、80%の確率で25ドル貰える」 - 損失の選択
今25ドル持っているとして、
「20ドルに減ってしまう」または
「20%の確率で全て失って、80%の確率で25ドルをそのまま維持できる」
と、「確実な選択肢」と「リスクのある選択肢」のどちらかを選ぶというものです。各参加者はこのような選択を96回ほど行ったんですね。
このときに参加者は選択の仕方で3つのグループに分けられていて、
- コントロールグループ
自分の好きなように選択するグループ - 感情選択グループ
感情に従って選択するように指示されたグループ - 感情抜きグループ
選択肢への感情を排除して選択するように指示されたグループ
これらの3つのグループでリスクの取りやすさがどう変わるのかを比較して、感情とリスクの関係と調べたわけですね。
結果:感情とリスクのとりやすさ
その結果として分かったのが次のグラフです。
左から、コントロールグループ、感情選択グループ、感情抜きグループで、
薄い棒グラフが”利益の選択”でリスクのある選択肢を選んだ確率
濃い棒グラフが”損失の選択”でリスクのある選択肢を選んだ確率
を表しています。
このグラフから分かるのは
- どのグループでも、利益よりも損失の選択でリスクのある選択を取りやすい傾向がある
- 感情抜きグループは他のグループと比べて、リスクのある選択を取る確率が低かった
ということです。
つまり、人は選択するときに感情が作用するほどリスクを取りやすくなるということですね。
結果2:選択肢に関する感情
さらにこの研究では、感情がリスクの選択に作用することが分かったけど、感情の種類によっても選択の仕方が変わるのではないかということ調べてくれています。
感情の種類としては、
- 選択肢に対してポジティブな感情を感じているか
- 選択肢に対してネガティブな感情を感じているか
- あるいはその中間くらいなのか
の3種類で分析がされていて、その結果が次のグラフです。
このグラフは、
左がネガティブ感情、真ん中が中間、右がポジティブ感情
薄い線が利益の選択でリスクをとった確率
濃い線が損失の選択でリスクをとった確率
となっています。
このグラフから右上に一つだけ高い点があることから分かるように
- 損失の選択では、リスクのある選択肢にポジティブな感情を感じていると、リスクを取る確率がグッと高まる
- 利益の選択ではリスクを取る確率は一定で、感情は作用しなかった
ということです。
つまり、感情がリスクを取りやすくする効果は、選択の種類が損失の選択で、かつ選択肢にポジティブな感情を感じているときにのみ発揮されるということですね。
これは現実で考えてみると、株やギャンブルで負けているときになかなか抜け出せないのに似ていると思います。負けて損失が膨らむ中でも、一度の勝ちで一発逆転できるかもというポジティブな期待が、そのリスキーな選択を取りやすくしてしまっているわけですね。うーん、これは怖いですね。
グラフを見てもそのケースだけ20%ほど確率が跳ね上がっているので、損失があるときこそ、おいしく見える選択肢には注意したいところですね。
まとめ
本稿では「感情がリスクの選択に与える影響」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 選択を感情に任せるほどリスクを取りやすくなってしまう
- 特に損失の選択でポジティブな感情を持っているときには、リスクを取る確率がグッと高まる
- なので、損失の選択時には、感情的にならないように注意しよう
ということですね。
損失の選択時にはおいしく見える選択肢につられてリスクをとってしまいがちなので注意しましょう。先の研究から、感情を抑えて感情抜きで選択しようしたグループはリスクの選択を減らせているので、損失の選択時には特に合理的に選択することを心がけると良いと思います。
[参考文献]
*1 : I’m feeling lucky: The relationship between affect and risk-seeking in the framing effect.