子供に音楽を習わせることは、子供の知能や学力を向上させるのか?
子供の習い事として、ピアノなどの楽器や歌を習わせる人も多いと思います。それで、音楽を習いごとにすることは、もちろん音楽のスキルを向上してくれるのですが、音楽を習うことで子供の頭が良くなるという効果もよく耳にします。
これは「スキルの転移」という現象で、音楽で得たスキルが、ワーキングメモリーや脳の実行機能などの一般的なスキルを向上してくれたり、それがさらに数学や国語などの学業のスキルへと転移して広がっていくと考えられているわけですね。
それで、本稿で注目するのは
- 子供の頃の音楽のトレーニングは、本当に他のスキルに転移するのか?
で、リバプール大学の心理学の研究(*1)を参考に、音楽の習い事の効果を見ていきましょう。
音楽のスキル転移
この研究では2016年までに行われた音楽のトレーニングと他のスキルの転移の研究38件をメタ分析でまとめて、本当にスキルの転移は起こるのかの結論を出してくれています。
このメタ分析で集められた38件の研究の特徴としては
- 3歳〜16歳の子供を対象にしている
- これまで音楽の経験がない子供に、新しく音楽を習わせて、そのときのスキルの変化を測定している
- 音楽のトレーニングは、音楽を聴いたり音楽の映像を見るみたいな受け身のものでなく、自分で楽器を弾いたり歌ったりしている
- 新しく音楽を習うグループと、音楽を習わないコントロールグループを比較していて、データの数も効果量を測定するのに十分である
ということで、音楽のスキルの転移に関して質の良い研究を選出しています。
結果:音楽のスキルは転移するのか?
分析の結果として、音楽のスキルが他のスキルに転移するのかというと
- 音楽以外の様々なスキルを総合すると、音楽の他のスキルへの転移の効果量はd=0.16
ということ。
効果量0.16は結構低めの値で、結論としては、「音楽のスキルは他のスキルへと転移はするけど、その効果はごく僅かなもの」ということですね。
結果2: 転移先のスキルによって効果が違うのでは?
スキルの転移は、転移元のスキルと転移先のスキルに共通点が多いほど、転移がしやすいと考えられます。そのため、音楽のスキルも転移先のスキルの種類によって効果の大きさは変わることが考えられます。
これを考慮して、先の研究ではスキル別の効果も分析してくれていて、
- 読み書き能力には音楽のスキルは転移しない
(効果量 :−0.07、95% CI: −0.23〜0.09) - 数学の能力にも音楽のスキルは転移しない
(効果量 :0.17、95% CI: −0.02〜0.36) - 記憶力には音楽のスキルは転移する
(効果量 :0.34、95% CI: 0.20〜0.48) - 知能にも音楽のスキルは転移する
(効果量 :0.35、95% CI: 0.21〜0.49)
という結果が得られています。
傾向としては、記憶力や知能といった脳のパフォーマンス系のスキルには音楽のスキルの転移が起きて、読み書き能力や数学の能力といった学業系のスキルには音楽のスキルの転移は起きないみたいですね。記憶量や知能は音楽を習う中でも直接使うことがありますが、読み書き能力や数学は音楽を習っても直接使うことがなく、音楽と距離が遠いスキルになるので、スキルが転移しにくいのでしょう。
記憶力や知能に絞ってみると効果量も0.34〜0.35となっていて、他のスキル全体への効果量0.16よりも少し向上していることが分かりますね。
まとめ
本稿では「音楽のスキルは他のスキルへ転移するのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 音楽のスキルは記憶力や知能といった脳のパフォーマンス系のスキルには少し転移する
ということ。
ただし効果量の大きさを見ても、一般に信じられているほど大きなスキルの転移は起きないみたいですね。私が子供の頃は水泳を習っていたのですが、運動にも脳を鍛える効果があるので、音楽にこだわらずにスポーツも習い事にするのも良いと思います。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]