早めの締め切りは先延ばしを防ぐのに効果があるのか?に関する研究
先延ばしは誰もが悩まされる悪い習慣の一つです。
学生を対象にしたデータによると、
- 46%の学生が自分は先延ばしの常習犯だと感じている
- 80〜95%の学生が学校の課題を先延ばししてしまうことがある
と先延ばしに多くの人が悩まされていることが分かります。まあ、学校の宿題を計画的に取り組める生徒は稀で、締め切り近くになって慌てて取り組むことが多いですよね。
それで先延ばしの対策としてよく挙がるのが「自分で少し早めの締め切りを決めよう」ということです。早めの締め切りに合わせて課題を始めれば、本当の締め切りに焦ることなく、余裕を持って終わらせることができるというわけですね。
しかし、少し早めに締め切りを決めたところで、本当にその締め切りを守れるのかという疑問もあります。そこで本稿では、自分で決める早めの締め切りの効果を検証してくれた研究を参考に、先延ばしを減らす方法について考えていきましょう。
早めの締め切りと先延ばし
今回注目するのはニューヨーク大学らの研究(*1)で、この研究では146人の参加者に、期限内に単語のリストをアルファベット順に並べ替えるタスクを行ってもらっています。単語の数は150〜200個をいうことなのでなかなか時間のかかるタスクで、一つでもミスがあった場合は全てのミスを修正しなければ完了の扱いにはなりません。
そして参加者は次の6つのグループに分けられています。
- 1週間以内に1回タスクを行う(自分で早めの期限を決める)
- 1週間以内に1回タスクを行う(自分で期限は決めない)
- 2週間以内に3回タスクを行う(自分で3つのタスクの期限を決める)
- 2週間以内に3回タスクを行う(3つのタスクの期限は既に決められている)
- 2週間以内に3回タスクを行う(特に3つの期限は決められていない)
これらのグループを比較することで、自分で締め切りを決めることがタスクの完了率を上げてくれりのかが分かるわけですね。
結果:シングルタスクの完了率
最初に1週間で1つのタスクが割り当てられたグループのタスクの完了率の推移が次のグラフになっています。
赤い点線が自分で早めの締め切りを決めたグループの結果で、
黒い実線が自分では締め切りを特に決めなかったグループの結果です。
このグラフから分かるのは、
- 自分で締め切りを決めた方がタスクの完了率が良い
(最終的な完了率は期限有りで57.1%、期限無しで45.6%) - 特に初日の完了率の伸びが自分で期限を決めた方が高い
ということです。ただし、この差は統計的には有意とまでは言えないということなので、シングルタスクの場合は自分で早めの締め切りを決めた方が完了率が上がる可能性がある程度の結果ということです。
結果2:マルチタスクの完了率
続いて、2週間で3つのタスクが割り当てられたマルチタスクグループの結果を比較した結果によると
- 自分で締め切りを決めたグループの完了率は36.8%
- 他の人が設定した締め切りがあるグループ完了率は40.6%
- 締め切りを特に決めなかったグループの完了率は47.0%
ということ。面白いことに、マルチタスクの場合にはそれぞれのタスクに締め切りを設定しない方が完了率が高くなっています。
そして、これがなぜなのかをもう少し詳しく見ていくと、
- 締め切りを決めたグループの完了率が後半のタスクになるほど低下していて、途中で脱落してしまっている
- タスクを開始するタイミングが締め切りに近くなるほど、タスクの失敗率が上がってしまう(失敗率とはタスクに挑むけどミスを修正しきれなくて諦めてしまうこと)
- そもそも3つのタスクをこなせるように自分で期限を決めているけど、自分の能力を適切に把握しきれていなかったりして、計画の精度自体が悪い可能性もある
といった感じなんですね。
なので、この結果を見て私が思ったのは
- 将来の自分は怠けないできっちりできると勘違いする
→自分の能力に基づかない無理な計画になっている
→タスクの期限ギリギリになってしまい失敗率が向上する
→1つでもタスクの期限に間に合わないと、その先どうでも良くなってしまう
ということが起こり得るということです。
例えば、3つのタスクを2週間で均等にやろうという計画がなければ、2週間のうちのたまたま調子がいい日に一気に全部終わらせるということもできますよね。なので、細かく計画を決めてきっちりそれに従うとすると、その計画を決めたときはなんだか行けそうな気はするけど、そこかで計画から外れてしまった時に逆効果になってしまう可能性があるのかもしれませんね。
まとめ
本稿では「早めの締め切りを決めることに効果はあるのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 単発のタスクであれば早めの締め切りは完了率を上げてくれる
- 連続したタスクであれば、1つ1つのタスクに期限を決めて計画を立てることは、逆に完了率をさてげしまう結果にもなり得る
- そもそも計画を精度よく立てること自体が難しく、計画通りにはいかないものなので、柔軟に対応できることも大切
ということですね。
連続したタスクの先延ばしを無くすには、早めの締め切りはあまり効果はないのかもしれませんね。締め切りに近くなるほどタスクを諦めやすくなってしまうので、先延ばし対策としてはタスクの開始のきっかけを早めに作るのがいいと思います。例えば、前もってスケジュールにタスクを行う時間を入れるとかの方が効果があるのではないでしょうか。
[参考文献]
*1 : Present-Bias, Procrastination and Deadlines in a Field Experiment