速筋と遅筋で筋疲労の回復に違いはあるのか?の研究
筋肉は筋繊維が束になってできていて、この筋繊維には速筋と遅筋の2種類があります。それで、速筋と遅筋はそれぞれ異なる特徴を持つのですが、ヘント大学の研究(*1)では
- 速筋と遅筋で筋肉の回復の速さは違うのか?
を実験してくれていて面白かったので、本稿ではその中身を見ていきましょう。
速筋と遅筋とは?
速筋と遅筋にはそれぞれ異なる役割があって、速筋は瞬間的に高い筋力を発揮できるけど持久力はない、逆に遅筋は長期的に力を発揮できるけど最大筋力は小さいという特徴を持っています。パワーリフティングなどの瞬間的にパワーを発揮する種目では主に速筋が使われて、ランニングのような長時間にわたる運動では遅筋がメインに使われるわけですね。
速筋と遅筋が面白いのは、同じ部位の筋肉でも人によって速筋と遅筋の割合が違うということです。これは遺伝的に決まる部分ももちろんあるのですが、筋繊維はトレーニングによって速筋になったり遅筋になったりと、筋繊維の種類が変異するということもあるそうです。高重量を扱って筋トレをすれば速筋の割合が増えますし、逆にマラソンのような筋持久力が必要なトレーニングをすれば遅筋の割合が増えていくわけですね。
速筋と遅筋で回復力は違うのか?
それでヘント大学の研究(*1)では、速筋と遅筋の回復力を実験により測定しています。
どのような実験かというと、まず36名の頻繁に運動をする人を対象に速筋と遅筋の割合を測定しています。そして、速筋と遅筋の割合のをある一定の基準でグループ分けして、
- 速筋の割合が多いグループ(10名)
- 遅筋の割合が多いグループ(10名)
を選出しています。
そして、これらのグループで筋肉の回復に差が出るのかを調べるために、エクササイズバイクを30秒間全力で漕いでもらう運動を3セット実施してもらいます。全力で漕いだ後には、当然運動の疲れで足の筋力などが一時的に低下するので、運動の直後〜5時間後までの間でその疲れがどれだけ回復するのかの推移を測定しています。
結果
結果がどうなったのかというと、まず最初に
- エクササイズバイクの全力漕ぎでは、速筋が多い人の方がペダルを漕ぐパワーが+19〜+43%ほど強かった
- ただし、速筋が多い人の方が1セット目と比べて、2セット目・3セット目でのトータルのパワーは大きく低下していた(速筋 −61% vs 遅筋 −41%)
ということ。速筋の特徴の通りに、最大パワーはあるけど、筋持久力はないため2セット目以降では大きくパワーが低下してしまったという結果が得られています。
そして、運動後の回復力がどうだったのかというと、
- 遅筋が多い人では運動の20分後には筋力は完全に回復していたが、速筋が多い人では5時間後でも筋力は完全には回復しきらなかった。
ということ。
これはなかなか大きな差が出ていて面白い結果ですね。遅筋はあっという間に回復していますが、速筋は合計90秒の全力サイクリングなのに5時間にわたって筋疲労が残り続けてしまっています。
なので、速筋と遅筋のどちらをトレーニングをするのかは、筋疲労の観点も考えて選んだ方が良さそうですね。例えば、マラソンが速くなりたいのに、高重量のスクワットばかりやっていると、パワーはあるけど疲れやすい足になってしまうかもしれません。
まとめ
本稿では「速筋と遅筋の疲労の回復力」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 筋疲労の回復は遅筋の方が速く、遅筋が多い人が20分で回復する運動でも、速筋が多い人は回復に5時間以上かかることもある
ということですね。
筋トレをする人は速筋が発達していると思うので、パワーがあるけど回復に時間がかかる筋肉になっている可能性が高いです。なので、トレーニング後にはしっかりと回復の時間をとることや、最初に種目の疲れが後の種目に影響することも考えたトレーニングの組み方とかを気をつけた方が良さそうですね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Muscle fiber typology substantially influences time to recover from high-intensity exercise