数学に苦手意識を持ってしまうのには、先生のある考え方が影響するという研究
数学といえば、学校の教科の中でも苦手意識を持つ人が多い科目ですよね。足し算や掛け算の頃ならまだ嫌う子も少ないのですが、三角形の面積、方程式、微分積分と学年が上がって難易度が増すにつれて、だんだんと数学を嫌いになってしまう生徒が増えてしまいます。
練習問題が解けなかったり、テストで良い点が取れなかったといった失敗の経験が苦手意識を作ってしまうのが数学嫌いが増えてしまう一つの理由というわけですね。
しかし、ここで大切になるのが失敗をどのように捉えるかの解釈の問題です。数学で失敗したときに自分には才能がないと諦めてしまうのか、それとも失敗から学ぶことが大切と考えるのかの解釈の仕方次第で、数学に対する苦手意識の持ちやすさも変わってきます。
そして、この解釈に影響を与えるのが先生の考え方や態度です。テストの点数などの結果を重視する先生と、数学への興味や生徒の成長を重視する先生では、授業の雰囲気も変わりますし、生徒が数学で失敗してしまったときの解釈の仕方も変わりますよね。
そこで、ドルトムント工科大学の研究(*1)が
- 数学が好き、数学が得意といった能力は、生徒が生まれ持って来るもので、後から変えられないと考えている先生は、生徒の数学の内発的モチベーションを下げてしまうのか?
について調査してくれていましたので、本稿はその中身を見ていきましょう。
先生のマインドセットと生徒のモチベーション
人の能力は誰でも努力次第で変えていけるという「成長マインドセット」と、人の能力は生まれ持ったもので固定的だという「固定マインドセット」の違いは、生徒の成長に大きな影響を与えます。成長マインドセットを持った生徒は、失敗を恐れずに困難な課題にも挑戦するし、失敗してもそれを学びに変えていくんですね。
それで、ドルトムント工科大学の研究(*1)は、数学の先生の固定マインドセットが生徒の数学へのモチベーションを低下させてしまわないのか?を実際の学校のデータから分析しています。
この研究に参加したのは全部で20校で、小学4年生の数学のクラス56組(先生56人、生徒830人)を対象に
- 先生の固定マインドセットはどのくらいか?
(先生は数学の才能は生まれ持ったものと考えているか?) - 生徒の内発的モチベーションはどのくらいか?
(数学が好きという気持ちからくるモチベーションがどのくらいか?) - 生徒の過去の数学の成績はどの程度だったか?
といったデータが集められています。
結果
これらのデータの分析結果から分かったことは
- 成績が低い生徒ほど、数学の内発的モチベーションが低かった
- 先生の固定マインドセットの傾向が強いほど、生徒の内発的モチベーションが低かった
- 特に先生が固定マインドセットの場合には、成績が低い生徒の内発的モチベーションが大きく低下していた
ということ。
数学が得意な生徒は先生のマインドセットの影響はあまり受けないようです。しかし、数学が苦手な生徒の場合には、先生のマインドセット次第で、数学に苦手意識を持ってしまうのか、それとも苦手でも数学は好きでいられるのかが変わってくるということです。
数学が嫌いな生徒は学年を重ねるごとに増えていってしまうデータもあるということで、数学が好きという気持ちを維持し続けるには、難しい内容でもちゃんと勉強すれば理解できるという成長マインドセットを先生と生徒の両方が持つことが大切みたいですね。
まとめ
本稿では「先生のマインドセットと生徒の内発的モチベーション」のお話をしました。
ポイントをまとめると
- 数学の先生が能力は生まれ持ったもので変わらないという固定マインドセットであると、数学に苦手意識を持つ生徒が増えてしまう
ということですね。
今回は数学の先生が対象でしたが、これは親と子供の関係や、仕事の上司と部下の関係でも同じ現象が起こり得るのではないでしょうか。例えば、あの部下は仕事の才能がないみたいに、人の能力を固定的に見る上司の元では、部下の内発的モチベーションが低下してしまうかもしれません。
ということで、自分は変わっていけるんだという成長マインドセットを持つことも大切ですが、他のみんなも変わっていけるんだという他者への成長マインドセットも大切にしていきましょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]