幸せな旅行には、感情の多様さが大切だという研究
幸せに関する心理学の研究では、ポジティブな感情とネガティブな感情のバランスに注目するものも多いです。怒りやイライラなどのネガティブな感情が少なくて、嬉しさや楽しさといったポジティブな感情が多いほど幸福感は高いというわけですね。
しかし、感情にも色々な種類があって、嬉しさ、楽しさ、驚き、興奮、希望、感謝、愛、達成感など無数の感情があります。そこで、中国の中山大学の研究(*1)では
- 感情の多様性は幸福感にどのように影響するのか?
という着眼点で幸福を研究していました。この研究が面白かったので、本稿ではその中身を見ていきたいと思います。
感情の多様性と幸福感
まず感情の多様性とは、どれだけ多くの種類の感情を感じているのか?ということです。どういうことかというと、例えば、休みの日に何か楽しいことをして過ごしたとして、
- 楽しさを感じる経験を3回した人
- 楽しさ・驚き・嬉しさの3つをそれぞれ1回経験した人
の2人がいたとしましょう。どちらも1日に3回のポジティブな感情を感じていますが、前者は1種類の感情だけなので多様性は低く、後者は3種類の感情を感じているので多様性が高いということになります。それで中山大学の研究では、
- 幸福感が高いのはこの2人のどっちなのか?
という感情の多様性と幸福感の関係を調べています。
旅行と感情の多様性
この研究では旅行に注目して、感情の多様性の効果を調べています。「友達と一緒の楽しさ」とか、「絶景を見て感動」とか、「美味しい物を食べて幸せ」とか、旅行先では普段の生活よりもずっと多くの感情を感じるので、多様性の研究にぴったりなんですね。
それでこの研究では304人を対象にアンケート調査で前に旅行したときの経験を聞き出していて
- 旅行で感じたポジティブな感情の種類と頻度
- 旅行で感じたネガティブな感情の種類と頻度
- 旅行で感じたポジティブな出来事をどれだけスラスラ思い出せるか?
- 旅行で感じたネガティブな出来事をどれだけスラスラ思い出せるか?
- 旅行がどれだけ幸せだったか?
といったことをデータとして取得しています。
結果:ポジティブな感情の多様性と幸福感
まず最初にポジティブな感情の多様性と幸福感にどのような関係が見つかったのかというと
- 旅行先で感じたポジティブな感情の量が多いほど幸福感が高かった
- 旅行先で感じたポジティブな感情の多様性が高いほど幸福感は高かった
という結果が得られています。旅行はポジティブな感情を多く経験するほど幸福感が高いのはもちろん、それらのポジティブな経験が特定の種類の感情に偏るのでなく、様々な種類の感情に分散しているとさらに幸福感が高くなるということですね。
そして、ポジティブな出来事の思い出しやすさに関しても面白いことが分かっていて
- ポジティブな感情の多様性が高い人ほど、旅行であったポジティブな出来事を思い出しやすくなり、それが旅行の幸福感を高めていた
ということ。
なので、旅行に行くときには、楽しいこと・嬉しいこと・驚くこと・感動すること・ワクワクすることなど色々なイベントがあれば、後から思い出したときに楽しい経験がいっぱいで幸せな旅行だったと思えるわけですね。
結果:ネガティブな感情の多様性と幸福感
次に旅行中のネガティブな感情の多様性が幸福感にどのように影響していたのかというと
- 旅行先でのネガティブな感情の量が多いほど、旅行の幸福感は低下していた
- しかし、ネガティブな感情の多様性が高いと、旅行の幸福感は高まった
ということ。ネガティブな感情は幸福感にとってはマイナスなものなので、もちろん少ない方が良いでしょう。しかし、ネガティブな感情の多様性は幸福感を高めるという面白い効果が確認されています。
これがなぜなのかは、ネガティブな出来事の思い出しやすさが関連しているようで、
- ネガティブな感情の多様性が高い人ほど、ネガティブな出来事を後で思い出しにくくなり、その結果として旅行の幸福感の低下が抑えられていた
ということ。ネガティブな出来事は同じ感情のものが重なったときに特に幸福感が低下してしまって、多様な感情に分散できればそこまで記憶には強く残らないということですね。
まとめ
本稿では「感情の多様性と幸福感」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- ポジティブな感情が多く、ネガティブな感情は少ない方が旅行の幸福感は高まる
- 感情の多様性にも幸福感を高めてくれる効果があり、感情を多様にした方が良いのはポジティブな感情もネガティブな感情も同じ
ということです。
感情の多様性が大切なのは旅行に限らずに普段の生活でも同じなのかもしれませんね。なので、幸福感を高めたければ、色々な感情を感じられるように、色々なことをやってみるのが良さげということですな。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Are Rich and Diverse Emotions Beneficial? The Impact of Emodiversity on Tourists’ Experiences