自制心はすり減ってしまうもの説のデータをまとめた研究
仕事で疲れているときに誘惑に負けやすくなってお酒が増えてしまったり、ダイエットで我慢を続けると感情のコントロールが低下してイライラしやすくなったり、自制心は使えば使うほどすり減ってしまって、自分のコントロールが下手になってしまうという説があります。
しかし、自制心は人生の様々な場面で必要になることもあり、自制心には色々な要素が関係してくるものです。例えば、その人の性格であったり、自制心を使うタスクの種類、タスクの難易度、そのときの感情面、タスクへのモチベーション、疲労感などですね。
そこで、ノッティンガム大学らの研究(*1)が自制心はすり減ってしまう説に関する83件の研究を集めて、これらのデータをメタ分析でまとめてくれてしましたので、本稿ではその研究の中身を見ていきましょう。
自制心に関する様々なデータ
まず最初にメタ分析で全ての研究を総合した結果として、
- 自制心が必要なタスクに取り組むと、確かに自制心はすり減ってしまって、次のタスクで忍耐力が低下してしまった(d=.62)
という効果が確認されています。まあ難しい仕事で疲れるとケアレスミスが多くなってしまうように、これは実際の生活の中でも実感できるものですよね。
自制心の低下が大きいときとは?
次にどのようなときに自制心の低下がどのような要因と関係していたのかというと
- 努力をするほど自制心は低下した(d=.64)
- 難しいと感じるタスクで大きく自制心は低下した(d=.94)
- 疲労を感じると自制心は大きく低下した(d=.44)
- 血中のグルコースレベルが低下すると自制心は低下した(d=.87)
となっています。一応自制心の低下とあまり関係がなかった項目も見ておくと
- ポジティブな感情の大きさは自制心とはほとんど関係はなかった(d=−0.03)
- ネガティブな感情の大きさは自制心を少しだけ低下させた(d=.14)
- 自己効力感は自制心とはほとんど関係はなかった(d=.16)
(自己効力感とは頑張って乗り越える自信のようなもの) - タスクにかかった時間は少しだけ自制心を低下させた
ということ。
なので、基本的には難易度が高いタスクで努力をするほど自制心は低下して、例えそのタスクが楽しくてポジティブな感情を感じていても、疲労が溜まってくれば自制心の低下はしっかりと現れてしまうようですね。
どんな自制に影響が大きいのか?
続いて、自制心は色々な場面で使うもので、感情を抑えるとか、注意力を保つとか、長期的に利益のある選択をするとか、様々な使い道があります。そこで、どんな風に自制心と使ったときに、自制心がすり減りやすいのかのデータを見てみると、
- 感情のコントロール(d=.62)
- 思考力(d=.63)
- 衝動の抑制(d=.55)
- 注意の維持(d=.65)
- 選択や決断(d=.82)
- 認知タスク(d=.54)
- 社交(d=.75)
となっています。特別に低い効果量の結果がないので、基本的には自制心はどんな種類の使い方をしても減ってしまうと考えられます。
自制心の保存や回復、容量アップはできるのか?
自制心は使えば使うほど減ってしまうのであれば、自制心を意図的に使わないようにして後半戦のために保存したり、休憩により回復させたり、あるいは自制心を使うことで筋肉のように鍛えることもできるかもしれません。
この辺りのデータを見てみると、
- 自制心を意図的に保存した人は、後半のタスクで高い自制心を発揮した(d=1.04)
- 自制心を鍛える訓練を受けた人は、自制心の低下が少なくなった(d=1.07)
(容量が増えたと考えても良い) - ブドウ糖を摂取するなどして血中のグルコースを高めると、自制心が回復した (d=0.75)
- 報酬を用意するなどでモチベーションを高めれば、自制心の低下が少なくなった(d=1.05)
ということ。
これらのデータはうまく活用して、自分の自制心をうまく高めるの使えそうですね。例えば、自制心のペース配分を考えて、あまり重要でない仕事にはあまり自制心を使わないようにするとか、自制心が低下してきたらブドウ糖や休憩を入れて回復させるとかをすると良いでしょう。
まとめ
本稿では「自制心がすり減る説のデータ」についてまとめました。
ポイントをまとめると
- 自制心は使えば使うほどすり減って、自己コントロールが下手になってしまう
- 特に難易度が高いタスクや努力が必要なタスクで自制心はすり減ってしまう
(簡単で長い時間のタスクではあまりすり減らない) - 自制心は意図的にペース配分したり、鍛えて容量アップしたり、ブドウ糖やモチベーション向上で回復させることもできる
ということです。
私も疲れたときには、やる気が起きなかったり、だらだらとYoutubeを見てしまったりしてしまうことがあります。タスクに応じて自制心の割り振りを考えたり、休憩の挟み方を工夫したりして、うまく自制心をコントロールしていけるといいですね。
[参考文献]
*1 : Ego Depletion and the Strength Model of Self-Control: A Meta-Analysis