歳をとると新しいことに挑戦できないのはなぜか?の研究
「新しいことは若い人に任せよう」とか「もう歳だからスマホみたいな新しいデバイスは使えない」とか、歳をとると新しいことに挑戦しづらくなってしまう問題があります。
歳をとると新しいことをあまり学べなくなってしまう、ということを信じる人もいます。しかし、脳科学的には何歳になっても脳は適応して学習できる事が分かっているんですね。
そして大切なのが、いつまでもボケることなく脳機能を保つには、脳をちゃんと使ってあげる事が必要だということ。一時期流行った脳トレのゲームなんかも、脳をちゃんと使って鍛えることが目的です。もう歳をとったからダメだと、新しい挑戦を諦めてしまうことは、脳を使う機会を減らしてボケを加速させることにもなってしまうんですね。
この問題について、ノースカロライナ州立大学の研究(*1)では
- 同じ頭を使うタスクを行ったとしても、若い人と高年齢の人では、感じる難しさに差が出てしまっているのでは?
という調べてくれています。若い人が普通だと感じるタスクでも、高齢者はすごく難しそうだと感じてしまって、挑戦を諦めてしまっている可能性があるわけですね。
年齢と記憶タスクの難しさ
ノースカロライナ州立大学の研究では、
- 高齢者39人(65〜84歳)
- 若者37人(20〜42歳)
を集めて、ワーキングメモリを使うタスクに挑戦してもらっています。
どのようなタスクかというと、画面にアルファベットと数字の組み合わせが表示されるので、それを記憶して数字を小さい順、アルファベットはアルファベット順に並べ替えて答えるというもの。例えば、”2-B-F-4-1-A”だったら、並べ替えた答えは”1-2-4-A-B-F”ということ。
それで、このタスクには数字・アルファベットの合計数で、難易度が8段階用意されています (文字数2個〜9個の8段階)。難易度が向上するにつれて、当然難しく感じます。そして、この研究の最大のポイントとして
- 若者と高齢者で難易度の感じ方に差が出るのか?
が分析されています。
結果:年齢が高いと難しく感じるのか?
タスクの難しさは6つの指標で測定がされています。
- 心理的な大変さ
- 肉体的な大変さ
- 時間的な大変さ
- パフォーマンスの低下
- どれだけ努力したと感じたか
- フラストレーションをどれだけ感じたか
実験結果として、ワーキングメモリタスクを行うときに、若者と高齢者でどのような差が出たのかというと、
- 若者と高齢者も、タスクの難易度が向上すれば、6つの難易度はそれぞれ向上した
- やっているタスクの難易度が同じなのに、高齢者は心理的な大変さ、肉体的な大変さ、時間的な大変さを若者よりも高く感じやすかった
ということ。新しことに挑戦するときなどの頭を使うタイプのタスクで、高齢者の方がより難しくてより大変そうだと感じやすいということが確認されたわけですね。
結果2:エンゲージメント
さらに、この研究では新しいことへ挑戦しようというエンゲージメントが、難易度や大変さの感じ方によって低下してしまうのかも分析しています。その結果を見てみると、
- 若者の場合は、主観的に感じる難しさや大変さやはエンゲージメントには関係なく、客観的なタスクの難易度のみがエンゲージメントに影響した
- 高齢者の場合は、主観的に感じる難しさや大変さが、そのタスクへのエンゲージメントに影響していた
ということ。
つまり、高齢者は簡単な難易度のタスクでも、主観的に難しそうだと感じてしまうと、そのタスクを敬遠して避けてしまう可能性が強まってしまうということ。高齢者ほどタスクに対してどう感じるのかという主観的な気持ちがより重要になってくるということですね。
まとめ
本稿では「高齢者が新しいことに挑戦できないのはなぜか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 若者と比べて高齢者は、頭を使うタスクを難しくて大変そうだと感じやすくなってしまう。
- 高齢者の場合には、難しそうで大変そうだという主観的な感じ方が、そのタスクを避ける原因にもなってしまう
ということ。
頭を使うことを避けるようになってしまうと、脳の機能が低下してどんどんとボケに向かってしまいます。多少難しそうだと感じても、脳のトレーニングにもなると考えて、色々と挑戦してみるといいのではないでしょうか。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Aging and Effort Expenditure: The Impact of Subjective Perceptions of Task Demands