宿題やご褒美を使って本を読ませても、読解力は向上するのか?
子供の頃にはたくさん本を読むことが大切だと教わったと思います。
文章の読解力はどの教科でも必要になる最重要スキルなので、たくさん本を読んで読解力を身につけることは当然大切だと考えられているわけですね。
それで、読書が実際に読解力の向上につながることはこれまでの研究でも確認されているのですが、問題は”子供がなかなか読書を好きにならない”ということです。私も小学生の頃はかいけつゾロリのような子供向けの本は大好きでしたが、中学生になって小説のような内容にレベルが上がると、ストンと本を読む頻度が落ちてしまったように思います。
そこで本稿では
- 読書好きな中学生と、別に読書なんて好きでない中学生で、読書量や読解力にどのような違いがあるのか?
を調べてくれた江南大学の研究(*1)を見ていきましょう。
読書のモチベーションと読解力
子供が進んで読書をするには、読書へのモチベーションが必要になります。このモチベーションには2種類があって
- 内発的モチベーション
純粋に読書が楽しくて好きという心の内からくるモチベーション - 外発的モチベーション
お小遣いがもらえたり、褒めてもらえるからという読書自身とは関係がない要因から来るモチベーション。あるいは宿題などの強制力による読書へのモチベーション。
となっています。
読書に関する研究で懸念されているのが、
- 内発的モチベーションで本を読む子は読解力が高まるけど、外発的モチベーションで好きでもないのに本を読まされている子は読解力は高まらないのでは?
ということ。これが本当だとすると、宿題などで強制的に本を読ませることはあまり意味がなくなってしまうので、子供の教育にとって重要なポイントなんですね。
モチベーションの種類で本当に読解力は変わるのか?
江南大学の研究では、この問題を552人の中学1年〜3年生を対象に分析しています。これだけの生徒から
- 読書のモチベーションの種類
- 読書量
- 読書戦略
- 読解力
のデータを取得して、その関係性を導き出してくれているんですね。
ちなみに読書戦略とは本の読み方をどれだけ工夫しているかの指標のことです。具体的には、情報を頭の中で関連づけながら読むとか、わからない部分を重点的に読むとか、内容を記憶に残すように読むとかの工夫のことですね。
そして、研究の結果として分かったことは
- 読書の内発的モチベーションが高い生徒は、読書量が多く、読書戦術が高く、さらに読解力も高かった
- 読書の外発的モチベーションが高い生徒は、読書戦術が高かったが、読書量は特に多くなく、読解力に関しては低い傾向があった
ということ。
なんと、外発的モチベーションは読解力にはマイナスという結果になってしまっているんですね。なので、読書は宿題やご褒美で無理にやさせるのではなく、自分の好きなように好きな本を読ませてあげることが大切ということです。
読書好きの読書量の多さが読解力を上げているのか?
内発的モチベーションの高い生徒は読書量が多いので、単純に考えると、読書量が読解力を高めていると考えられます。しかし、研究の分析結果によると、
- 読書量の多さは、読解力にはほとんど関係がなかった
- つまり、内発的モチベーションが高い生徒はもっと他の特徴があって読解力が高くなっていることがわかった
ということ。
残念ながら、具体的にどんな特徴が読解力の向上につながったのかは、この研究では分かっていません。様々な種類の本を読んでいるとか、より難易度の高い本を読んでいるとか、単純な読書量では測れない要因があるようです。
宿題だから本を読む生徒を考えてみると、ただ本を読み終えることが目的になって、内容を深く理解しようとしていない可能性もあります。読書に対する姿勢も読解力を左右する大切な要因として考えられるでしょう。
まとめ
本稿では「宿題やご褒美を使って本を読ませても読解力は向上するのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 内発的モチベーションに基づいて、好きで読書をする生徒は、読書量も読書戦術も多いし、読解力も高い傾向がある
- 外発的モチベーションに基づいて、好きじゃないけど読書する生徒は、読書量は増えないし、読解力は低い傾向がある
- 内発的モチベーションが読解力を高めるのは、単純な読書量だけの問題でなく、本の種類や読書の姿勢など、もっと複雑な要因が関係している。
ということ。
読書で読解力を向上させたいのなら、まずは読書を好きになってもらうことを第一優先で考えなければいけません。図鑑のような子供でも楽しめる本で興味を持たせたり、自分から本を買って欲しいと言ったときには惜しみなく買ってあげたりすると良いのではないでしょうか。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]