目標達成テクニックの心理対比はなぜ効くのか?効果を高めるポイントもあり
「目標を達成するためには、その目標を達成したときの姿を想像してみよう!」
と、自己啓発本なんかでよく目にすると思います。
理想を思い浮かべればモチベーションが高まりそうな気はしますが、実はこの話が嘘であることが心理学の研究で明かされています。ただポジティブに理想の姿を思い描くだけだと、想像だけで満足感が得られてしまって、目標達成への努力が減ってしまうことがあるんですね。
そこで大切なのが心理対比というテクニック。これは理想の将来を思い描いた後に、達成する上で障害となることも考えるというもの。例えば、ダイエットが目標なら、自分の痩せた姿を思い描いた後で、コンビニでついお菓子を買ってしまうかもしれないな〜、と障害を考えるわけですね。
心理対比が効果があることはさまざまな研究で確認されているのですが、ニューヨーク大学の研究では
- なぜ心理対比は目標達成の役に立つのか?
をもう一歩踏み込んで調べてくれていましたので、本稿ではその中身を見ていきましょう。
心理対比と障害の見え方
ニューヨーク大学の研究は
- 心理対比が目標達成に役に立つのは、無意識のレベルで障害に対するネガティブな感情が高まって、障害をうまく回避できるようになるからでは?
と考えています。
ダイエット中に目の前にケーキが売られていたとしても、ケーキはダイエットの天敵だというネガティブな感情を持っていれば、誘惑に負けずに正しい選択ができるわけです。
この研究ではこの説を確かめるために3つの実験を行っていて
- 理想の人間関係を持つこと
- クリエイティビティの試験で成功すること
- 健康的な食生活を手に入れること
をそれぞれ心理対比で考えてもらっています。このときに心理対比の効果を比較分析するために
- 心理対比で理想→障害と考えるグループ
- 逆心理対比で障害→理想と考えるグループ
- 理想も障害も考えないコントロールグループ
の3つのグループを用意しています。
心理対比は障害へのネガティブな感情を高める
実験の結果として分かったことは、
- 逆心理対比とコントロールグループでは、障害に対するネガティブな感情は特に高まらなかった
- 心理対比のグループのみが、障害に対するネガティブな感情が高まっていた
- しかも、理想の実現が現実的に可能であるほど、心理対比によって障害はより一層ネガティブに見えた
ということ。
これは下のグラフで見てみると一目瞭然。心理対比を行った黒い実線だけが、理想の実現性が高まるほど、感情が低下してネガティブ側へ向かっているんですね。
つまり、心理対比で事前に障害を考えるだけで、その障害がずっと悪いものに見えるということですね。
障害へのネガティブ感情は、行動を変えるのか?
障害に対してネガティブな感情が高まるということは、それだけ警戒心が増すということです。それでは、この警戒心は本当に行動を変えるまでの力があるのか?
ニューヨーク大学の研究では健康的な食生活を扱った3つ目の実験で、2週間にわたって実際の食生活を追跡調査して、行動の変化を調べてくれています。
その結果は
- 心理対比により実現可能な理想に対して障害を考えた人は、実際に食生活が改善している傾向があった
- 障害へのネガティブな感情が目標達成のためのエネルギーとなって、それが行動の変化を起こしてくれていた
ということ。
心理対比により障害をネガティブに感じるほど、実際にその障害を避けたいというエネルギーが湧いて行動が変わるということですね。特に現実的な目標ほど心理対比は効果が高いようなので、目標を立てるときには具体的な障害まで書き出すと良いでしょう。
まとめ
本稿では「心理対比はなぜ目標達成を助けるのか?」についてお話ししました。
この研究から分かった心理対比のポイントは、
- 心理対比を行うことで、障害に対するネガティブな感情が高まるので、障害を避けたいというエネルギーが湧く
- 実現可能性の低い目標ではこの効果はあまり得られないので、適切な目標設定のレベルが大切
- 理想→障害という考える順番もかなり重要で、逆順になると効果がなくなってしまうのにも注意
ということですね。
目標達成のためには理想を掲げるだけではダメで、現実的に障害を考えることも大切。ネガティブになりすぎても良くないので、理想と障害の両輪をうまく回すように意識すると良いでしょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Mental Contrasting Spurs Energy by Changing Implicit Evaluations of Obstacles