高すぎる目標は逆効果になってしまうこともあるという研究
目標を立てることは、学業や仕事、生活習慣の改善などの人生の様々な面で有効なもので、目標は達成感を与えてくれたり、モチベーションを高めてくれたりします。
目標の設定にはいくつか大切なポイントがあって
- 具体的であること
- 測定可能であること
- 期限が決まっていること
- 実現可能であること
などは特に外せないポイントです。これらの具体性がない目標では、最初に立てたはいいものの、なかなか行動が伴わずにずるずると過ごしてしまったします。
そこで本稿では、効果的な目標設定の研究として
- 野心的な高い目標を立てることは、時には逆効果になってしまうのでは?
ということを実験で確かめてくれた研究(*1)を見ていきましょう。
実験:高すぎる目標は逆効果になってしまうのか?
この研究では、目標設定の難易度と学業成績の関係を調べるために、大学の新入生1092人を対象に、大規模の実験を行っています。
対象となった大学では新入生が大学生活に慣れるのをサポートするために、メンター(上級生)が勉強方法などの指導をしているとのこと。研究ではその指導を活用して、新入生に3種類の目標設定を教えています。
- 目標設定無しグループ
目標を設定するような指導が一切ない - 適度な目標設定グループ
講義で取得したい成績(1〜10)に関して自分で適切な目標を立てるように指導する - 野心的な目標設定グループ
自分で適切だと思う成績に対して、もっと高い目標を立てるように指導する
これらの目標設定の違いで、最終的な成績やドロップアウト率がどれだけ変わるのかを測定しています。
結果:目標設定は学業成績を向上するのか?
早速結果を見てみると、まず適度な難易度の目標設定を自分で決めた場合は、
- 目標設定をしなかったグループと比べて、適度な目標設定は成績を0.18ポイント向上した(標準偏差の9.5%の向上に相当)
- 適度な目標設定をしたグループは、講義のドロップアウト率も2%ほど低下していた
ということ。自分で適切だと思う目標を立てることは確かに学業成績の向上に効果があることが確認されています。
次に、野心的な目標を進められてグループの結果を見てみると
- 野心的な目標設定をした人は、何も目標設定をしなかった人と同等、もしくは逆に成績が低下してしまうこともあった
- 野心的な目標設定をした人のドロップアウト率も、目標設定をしなかった人と同等であった
ということ。つまり、野心的な高い目標はほとんど効果がなく、人によっては逆効果にもなってしまうことです。
結果:目標設定が有効な生徒とは?
全体的な結果では、適度な目標設定は効果的で、野心的な目標設定は逆効果というなっていました。しかし、人それぞれ性格は違うので、目標の効果の大きさも人によってばらつきがあります。実は野心的な目標設定が成績の向上に繋がった人もいたということ。そこで、それらの個性の違いを分析した結果を見ると、
- 適度な難易度の目標設定は、特に成績が低い人に有効で、もともと成績が良い人にはあまり効果がなかった
- 野心的な難易度の目標設定は、留学生の成績は向上したが、国内の学生の成績は低下してしまった
ということ。
面白いのが留学生の成績は野心的な目標で向上している点。考察としては留学生はもともと勉強へのモチベーションが高いので、野心的な目標が成果につながったのではないかということ。
一方で、成績が悪くて勉強へのモチベーションが低い生徒には適切難易度の目標が有効で、高すぎる目標は逆効果になっています。これらから分かる1番のポイントとしては、自分の実力+モチベーションに対して、ちょうど良いチャレンジ感を与えれくれる目標が大切ということでしょう。
まとめ
本稿では「目標設定の難易度と学業成績」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 目標設定では自分の実力やモチベーションにあった難易度にすることが大切
- 自分の実力に対して高すぎる目標は、何も目標を立てないよりも悪い結果になってしまうこともある
ということ。
今回の研究は、新入生とメンターという指導関係で行っているのも面白い点です。仕事の場面に置き換えると、部下にもっと高い目標を持てと押し付けると逆効果になってしまうことが考えられます。特に指導で高い目標を押し付けると、自分で主体的に目標を決めた感がなくなって、押し付けられた義務的目標になってしまいます。これは内発的なモチベーションにも悪い影響を与えてしまうので注意しましょう。
[参考文献]