誘惑に負けないセルフコントロールを手に入れるためのテクニック集(前編)
セルフコントロール能力とは、目先の誘惑に負けずに、長期的な利益や目標達成のための行動をとる意志力のこと。学業成績や、仕事での成功、スポーツ、ダイエット、禁煙など、セルフコントロールは人生の至る所で必要になるため、この能力を磨いておくことは幸福への近道でもあります。
そこで本稿では、心理学で研究されているセルフコントロールの向上テクニックを4つの分類でまとめてくれたペンシルバニア大学の研究(*1)を参考に、誘惑に負けない意志力の作り方を見ていきましょう。
セルフコントロールの4つの分類
ペンシルバニア大学の研究では、セルフコントロールの向上テクニックを次の4つの分類に分けています。
- 自分で環境を変える系
- 自分で認識を変える系
- 他人が環境を変える系
- 他人が認識を変える系
環境を変えるとは、自分から行動をせざる負えない状況に追い込んだり、誘惑の少ない環境を整えるといった感じのこと。一方で認識を変えるとは、目標設定をしたり、プランニングをしたりとかいった感じのことです。
そして、自分で変える系は自分で自分のセルフコントロール能力を高めるテクニックで、他人が変える系や会社や国の政策などの他者がより良い行動を増やすためのテクニックになります
自分で環境を変える系
①罰や制限でコミットメントを高める
コミットメントデバイスとは、目標が達成できなかったときの罰を用意して強制力を働かせたり、目標に関係ない行動を自ら制限する方法です。例えば、
- 禁煙に失敗したら、第三者に預けていたお金を慈善事業に寄付する
- スマホを夜に使いすぎないように、スマホにロックがかかるアプリを使う
- 貯金をするときは簡単には引き出すことができない口座を選ぶ
といった感じ。
選択肢は多い方が良いと思われがちですが、実は選択肢が多くなるほど決断は遅くなり、誘惑も多くなってしまうもの。なので、できるだけ余計な選択肢を無くして、目標達成の行動を取りやすくすることが一つのポイントとなっています。
②誘惑バンドリング
短期的な快楽行動を行うときは、意志力が必要な行動をとっている時だけやっていいことにして、意志力が必要な行動と短期的な快楽をセットにする方法。
- 運動をしている間だけ、ネットフリックスでアニメを見ていい
- 皿洗いなどの家事をやっている時だけ、好きな音楽を聞いていい
といった感じで、意志力は必要な行動に短期的な快楽をプラスして、楽しい行動にしてしまうわけですね。
③環境の整備
お菓子などの誘惑の原因はできるだけ目に見えない場所にしまうなど、環境を整える方法。誘惑は目の見えないところなどアクセスがしにくい場所において、逆に習慣にしたい行動はすぐにできる環境を作ると良い。
環境が整備されると、そもそも誘惑を感じることが減るので、意志力を使わずとも悪い行動が減ることが確認されている。
自分で認識を変える系
①目標設定
目標設定はセルフコントロールの向上にとって基本中の基本。具体的な目標設定がある方が、ベストを尽くすと漠然と考えるよりもセルフコントロール能力が高まることは研究により分かっている。
効果が高い目標設定のポイントとしては
- チャレンジングな目標が良い
- 目標は公言すると良い
- グループで決めた目標も良い
- 大きいな目標は細かくサブ目標に分割すると良い
- 中間期限を決めるのも良い
ということ。そして、目標設定の落とし穴として
- 目先の小さな目標を達成することに囚われて、本来の大きな目標から方向性がズレてしまうことがある
ということなので、この点には注意しましょう。
②計画
目標を立てたら、いつ、どこで、どのように取り組むのかの計画を立てることが重要。具体的な行動レベルまで落とし込まれていて、何をやるのか迷わないようにすると良い。
If-Thenプランニングは特に効果が高いので、「もし〜になったら、〜をする」と行動のトリガーを決めてあげるのもおすすめ。例えば、「木曜の仕事が終わったら、帰ってすぐジョギングする」という感じですね。
③心理対比
モチベーションを高めるためには、目標を達成したときの良いイメージを想像しましょうということがよく言われます。心理対比ではこの良いイメージに加えて、「もし失敗するとしたらどんなふうに失敗するのか?」のネガティブなイメージも予め想定しておきます。
ネガティブなイメージをすることで、事前にそれを防ぐ行動が取れたり、万が一その状況に陥っても心や対処法の準備ができて、セルフコントロールがうまくなります。
④セルフモニタリング
目標への進捗状況を自分でモニタリングすると、セルフコントロールが向上します。ダイエットで体重を記録したり、食べたものを記録したりといった感じですね。大抵の目標は一回の行動だけで達成はできず、習慣的に何回も行動することが必要なので、日頃から進捗をモニタすることが大切になります。
セルフモニタリングのポイントとしては
- 記録としてデータを残すこと
- 記録を他の人に公開すること
で効果が高まるようです。
⑤心の距離をおく
誘惑に対して心の距離を保てれば、冷静にセルフコントロールができます。
心の距離を置くには、誘惑に悩まされている自分の状況を客観的に観察してみたり、誘惑の見方を変えることが有効です。誘惑の見方を変えるとは、例えば目の前に置かれたマシュマロを我慢しなければいけない時に、「このマシュマロはどんな味だろう」と直接的に見るのでなく、「このマシュマロは白くてふわふわで雲みたい」とあまり誘惑されそうない味方に変えてあげるということです。
⑥マインドフルネス
マインドフルネスは、過去や未来に対する雑念を取り払って、今ここに集中することです。やり方としては、瞑想やヨガ、食事をゆっくりと噛み締めるなど色々とあります。
マインドフルネスの訓練でセルフコントロールが向上することが確認されていて
- 衝動的な食事が大きく減った(d=−1.13)
- 運動量が増えた(d=0.87)
など結構大きな効果があることが確認されています。
⑦認知セラピー
認知セラピーは、普段自分が無意識に行っている自動思考に気づいて、その思考をより正確で正しいものに変えてあげる方法です。
例えば、禁煙中にタバコが吸いたくなったときに、その人は「もう無理だ、タバコの誘惑に耐えられない」と極端な思考になってしまっていることがあります。自分がセルフコントロールに失敗してしまうときに、どんな自動思考になってしまっているのかに気づければ、「確かにタバコの誘惑は強力だ。だけどその誘惑に打ち勝つことも不可能ではないはずだ」と冷静な思考に変えていくことができます。
まとめ
本稿では「セルフコントロールのテクニック集(前編)」についてお話ししました。
自分の環境を変える系
- 罰や制限でコミットメントを高める
- 誘惑バンドリング
- 誘惑が少ない環境の整備
自分の認識を変える系
- 目標設定
- 計画
- 心理対比
- セルフモニタリング
- 心の距離を置く
- マインドフルネス
- 心理セラピー
前半では自分で環境や認識を変えるテクニックを学んできました。後半では他人が環境や認識を変える系の自己コントロール向上テクニックについて学んでいきたいと思います。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Beyond Willpower: Strategies for Reducing Failures of Self-Control