収入の格差はあらゆる人の人生満足感を低下してしまうという研究
最近ではアメリカを初めとして収入の格差が問題視されるようになりました。アメリカでは上位1%の超裕福層の収入が全体の20%を占めるとも言われています。
そして、収入格差が起こす問題の一つとしては
- 収入格差が大きいほど、国の幸福感も低下してしまう
ということが分かっています。
上位数%だけが裕福になるほど、それの何倍もいる中間〜下位層の人たちが貧乏になってしまうわけですから、そりゃ全体で見れば幸福感は落ちてしまうわけですね。
そこで本稿では、収入格差について
- 収入格差があると、富豪層〜下位層までのどの収入レベルの人まで幸福感が低下してしまうのか?
を調べてくれたティルブルフ大学の研究(*1)を見ていきましょう。
収入格差と人生満足度
ティルブルフ大学の研究では、収入のレベル別に収入格差がどれだけ人生の満足感を低下してしまうのかを分析しています。分析の対象となったデータは、
- SWIIDとWIDという世界の不平等を扱ったデータセットを使用
- 世界39カ国の138,193個の観察データが含まれる
- 5年間隔で25年間分のデータが取得されている
ということ。世界を対象に大規模なデータを使って分析してくれていていい感じですね。
この研究では収入の格差は次の2つの指標で分析がされています。
- ジニ係数
収入の分布曲線の曲がり具合から、どれだけ分布が不平等かを算出する指標 - トップ1%の割合
トップ1%富豪層が収入のどれだけの割合を占めるかの指標
そして、これらの収入格差から収入のレベルを5つの層に分けて、
- 人生満足感
自分の人生を振り返って、どれだけ満足しているかの指標
がどのように影響を受けるのかを分析しています。
結果:収入レベルと人生満足感
早速結果を見てみると、まず最初に
- 国の資本あたりのGDPが高いほど、人生満足感は高い傾向があった
- 個人の収入レベルが高いほど、人生満足感は高い傾向があった
ということ。
やはり収入が良いほど幸福感は向上するということ。ただし、十分な収入があればそれ以上のお金は幸福感を向上しないという研究結果もありますので、収入が少ないと幸福感が低下してしまうというイメージが正しいのかもしれません。
結果2:収入格差と人生満足感
次に収入格差と人生の満足感の結果を見てみると、まず全体として
- 収入格差が大きいほど、人生の満足感は低下していた
ということが分かっています。
さらにこの研究の本題である「収入レベル別の収入格差の影響」が次の表。数値のマイナスが大きいほど、収入格差の影響で人生満足感が低下しやすいということを意味しています。
ジニ係数 | Top1%の割合 | |
上位20%(裕福層) | −0.26 | −0.10(※) |
やや上位20% | −0.30 | −0.14 |
中位20% | −0.35 | −0.18 |
やや下位20% | −0.35 | −0.20 |
下位20%(貧困層) | −0.35 | −0.20 |
これらの結果からわかることは
- Top1%の割合よりもジニ係数の方が収入格差と人生満足感の関係をうまく説明していた
- 収入が低い人ほど収入格差で人生満足感が低下しやすかった
- 最も収入が高い裕福層の人でも収入格差で人生満足感が低下していた
ということ。
収入格差の恩恵で収入が増えている上位層の人ですら、人生満足感が低下しているという面白い結果になっています。今回の結果からはなぜこの低下が見られたのかの原因はわかりませんが、不平等な社会はそれだけで幸福感にとってマイナスなのかもしれませんね。
まとめ
本稿では「収入格差と人生満足感の低下」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 収入格差が大きいほど、その国の人生満足感は低下してしまう
- 収入格差があると低所得者ほど大きく人生満足感が低下する
- 収入格差の恩恵を受ける高所得者ですら人生満足感は少し低下する
ということ。
AIが低所得者層の人の仕事を奪うという話もありますので、ただ低所得者層にお金を分配するだけでなく、そういう人たちに何かやりがいを見つけられるような社会の仕組みも考えていければいいですね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]