成長目標の効果をさらに高める目標の決め方があったという話
目標を決めることはモチベーションを維持したり、長期的なゴールを達成するために大切なこと。心理学の研究では、どんな目標が効果が高いのか調べられていたりします。
そこで本稿では、これらの目標の研究の中から
- 目標のタイプだけでなく、その目標の達成基準がどこにあるかが、パフォーマンスに影響するのでは?
ということを調べてくれたエラスムス大学ロッテンダムの研究(*1)を見てみましょう。
目標の4つのタイプ
この研究では、目標のタイプを次の4つに分類しています。
- ①獲得型の成長目標
成功を目標にするのでなく、失敗してもいいから学びを多く得ることを目指すタイプの目標。
- ②獲得型のパフォーマンス目標
自分能力を見せつけたり、相手に勝つことを目指すタイプの目標。
- ③回避型の成長目標
失敗して自分の有能感が損なわれたり、自分が必要だと思うレベルを下回ってしまうことを避けることを目指した目標。
- ④回避型のパフォーマンス目標
他人に自分が失敗しているところを見られたり、他人に負けたりすることを避けることを目指した目標。
獲得型がプラスを得ようという前向きな目標なのに対して、回避型はネガティブな結果を回避しようという後ろ向きな目標になります。そして、成長目標は失敗してもいいから困難な課題に挑んで成長を目指すのに対して、パフォーマンス目標は自分のできる範囲の課題で能力を発揮することを目指しがち。なので、最終的には獲得型の成長目標が一番パフォーマンスが高くなることが予想されます。
目標の達成基準の位置
さらにこの研究では、目標の達成基準をどこに置くのかで、目標の効果が変わってくることを想定しています。目標の達成基準の位置としては3つの分類に分けていて
- ①自己評価の達成基準
「前の自分よりも成長する」といったように、自分の中で達成基準を決めること
- ②タスク評価の達成基準
「微分積分をマスターする」といったように、タスクの内容に関する達成基準を決めること
- ③他者評価の達成基準
「学年で1番の成績を取る」といったように、他者に勝つことを達成基準にすること
となっています。
実験:目標のタイプと達成基準によりパフォーマンスの違い
エラスムス大学の研究では、上記の4つの目標のタイプと3つの達成基準の組み合わせによって、どんな目標が効果が高いのかを調べています。どんなふうに調べたのかというと、目標に関する先行研究90件(11,247人)のデータをメタ分析でまとめてくれたんですね。
結果①:目標のタイプとパフォーマンス
早速結果を見てみると、まず目標の4つのタイプによる効果の違いとして
- 獲得型の成長目標は、他の3つの目標よりもパフォーマンスが大きく向上していた
- 獲得型の成長目標以外の3つの目標はどれも大差はなかった
と、やはり獲得型の成長目標が頭ひとつ抜けています。
そして、獲得型の成長目標に関してもう少し深く分析した結果を見てみると、
- 獲得型の成長目標でも、モチベーションが他の目標よりも向上していることはなかった
- 獲得型の成長目標では、他の目標と比べて、自由時間にその目標に関する行動をする頻度が増えていた
ということ。例えば、勉強が目標だとしたら、獲得型の成長目標の人は、授業以外の自由時間でも多く勉強する傾向があって、それがパフォーマンスの向上につながっているわけですね。
結果②:目標の達成基準のタイプ
続いて、目標の達成基準のタイプの効果を見てみると、
- タスク評価の達成基準を使った成長目標で、他の目標よりもパフォーマンスが向上していた
- 自己評価の達成基準を使った成長目標では、パフォーマンスは他の目標を同じくらいに低下してしまった
- 他者評価の達成基準を使ったパフォーマンス目標では、獲得目標の方がパフォーマンスは高かった
ということ。
つまり、獲得型の成長目標を、タスク評価の達成基準で立てるのが、一番パフォーマンスアップにつながるということ。成長目標だとしても、達成基準が自己評価になってしまうと、パフォーマンスの向上が低下してしまうので注意が必要です。
まとめ
本稿では「目標のタイプと、達成基準のタイプ」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 目標のタイプは、失敗してもいいから成長することを目指す「獲得型の成長目標」が一番パフォーマンスを向上してくれる
- 達成基準は、自己評価の達成基準や他者に勝つ達成基準でなく、タスクの内容に関する達成基準を決めるとパフォーマンスが向上しやすい
ということ。
タスク評価の達成基準が良いということで、「TOEICで800点を取るとか」とか、「微分積分をマスターする」とか、具体的にそのタスクで何ができるようになりたいのかを達成基準にすると良さそうですね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]