自己効力感が高いことでパフォーマンスが低下してしまう落とし穴について
自己効力感とは、「自分なら乗り越えられるだろう」と自分の能力を信じる心のことで、何かの達成を目指す時には特に大切な働きをします。
自己効力感が高い人は、自信を持って高い目標へ挑戦するのに対し、自己効力感が低い人は、その自信のなさから低い目標に甘んじてしまうんですね。私は頭が悪いからと言い訳をして、難しい勉強や難しい仕事を避ける人も、その自己効力感の低さが関係しているわけですね。
しかし、自己効力感が高いことは本当にいいことばかりなのか?
その点について、オハイオ大学の研究では、
- 自己効力感が高いと、逆にパフォーマンスが低下してしまうこともあるぞ!
という落とし穴を発見していましたので、本稿で見ていきましょう。
自己効力感のメリット・デメリット
基本的に自己効力感はメンタルにとってはプラスのものです。自己効力感が高い人は、
- より高い目標を設定する傾向がある
- 目標に対するモチベーションが高く、目標達成に向けて積極的に行動する
- 途中で壁にぶつかっても、諦めずに忍耐強く取り組む
- 目標を達成すると、より高い目標へ挑戦する
と、自分で乗り越えていけるという自信は、目標達成への原動力になるんですね。
しかし、自己効力感は時にはマイナスに働いてしまうことも懸念がされていて、
- 自分に自信を持っていると、自分の能力を疑うことが減ってしまう。自分の現在のレベルを過大評価してしまうと、目標達成に必要な行動を見誤ってしまう。
- 「自分なら乗り越えられる」と自信を持っているほど、楽観的になって事前準備を疎かにしてしまう可能性がある
といったデメリットも挙げられています。
実験:自己効力感が高いとパフォーマンスが低下してしまうことがあるのか?
そこで、オハイオ大学の研究では、63名の学生を対象に実験を行っています。
この実験では、10週間の授業を2つを通じて、5回の試験を受けています。
その5回の試験に対して、
- 学生の自己効力感はどのくらい高いか?
- 学生はどのくらい高い目標を設定していたか?
- 学生はどのくらいの時間の試験勉強が必要だと感じたか?
- 学生は実際にどのくらいの時間の勉強をしたか?
- 最終的に成績はどうなったか?
が測定されています。
自己効力感が高いマイナスに働くなら、学生は楽観的に試験勉強を少なく見積もって、最終的に成績も低くなってしまうだろいという想定ですね。
結果:自己効力感と成績
結果を見てみると、
- 自己効力感が高い人ほど、最終的な成績は高い傾向があった(r=.54)
- 自己効力感が高い人ほど、高い目標を設定していた(r=.47)
ということ。
やはり自己効力感は基本的には良いもので、自己効力感が高い人ほど成績も向上しています。
それでは自己効力感がやはり良いもので決まりかというとそうではなくて、この研究では個人間の自己効力感の差だけではなく、同じ人の中での5回の試験での自己効力感の差の影響も分析しています。
結果:自己効力感が高い試験と低い試験
同じ人の中で、自己効力感が高かった試験と低かった試験での違いを見てみると、
- 自己効力感の高さは、試験の成績とは有意な関係がなかった
ということ。その理由についてもう少し深く分析して結果を見ると、
- 自己効力感が高いときほど、目標は高く設定していた
- 自己効力感が高いときほど、試験勉強に割り当てる時間が減ってしまっていた
- 目標の高さが同じなら、自己効力感が高いほどパフォーマンスは低下していた
ということがわかっています。
つまり、これが意味するところとしては
- 高い目標設定により成績を向上するプラス効果と、油断して試験勉強時間が減るマイナス効果で、合わせると自己効力感の効果はほとんどなくなっている
- 自己効力感は目標を設定する時にはあると良いが、普段コツコツと勉強する時にはない方が良い
ということになります。
まとめ
本稿では「自己効力感が高いことでパフォーマンスが低下してしまう時」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 自己効力感は基本的には良いもので、自己効力感が高い人ほど成績も良い
- しかし、同じ人のなかで自己効力感が高いときと低いときを比べてみると、自己効力感が高いことが勉強時間が減らして、逆にパフォーマンスが低下してしまう可能性もあった
ということ。
要は自己効力感が高いことで、自分の能力を過大に評価したり、必要な勉強量を見誤ってしまうデメリットに注意できればいいわけですね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : When Self-Efficacy Negatively Relates to Motivation and Performance in a Learning Context