昼寝は記憶の定着に良いけど、知識の抽象化にも良いという研究
記憶と睡眠は深く関わり合っているもので、人は寝ている間に頭の中の情報を整理して長期記憶に定着させます。そのため、勉強をしたら睡眠はしっかりと取ることが大切。徹夜で頑張って勉強しても、睡眠時間が削られて記憶の定着が進まない、なんて逆効果になったら嫌ですよね。
それで、夜の睡眠が大切なのはもちろん、昼寝にも記憶力を向上させる効果があることが分かっています。昼寝は午後のパフォーマンスを上げてくれるだけでなく、午前中に学んだことの記憶を定着してくれるという一石二鳥の効果があるわけですね。
そこで本稿では、昼寝の記憶力向上効果について、
- 昼寝をして記憶を定着させると、知識の抽象化も促進されるのでは?
ということを調べてくれたニューヨーク市立大学の研究(*1)を見てみましょう。
昼寝と知識の抽象化
ニューヨーク市立大学の研究では、中国語文字の意味の勉強を使って、昼寝と知識の抽象化の関係を実験しています。この実験では、参加者はまず21個の中国語の文字の意味を勉強します。これらの文字は同じニュアンスの文字3つを1グループにして、計7つのグループに分けられています。具体的にどういうことかというと
- 妹(意味:sister)
- 妈(意味:mother)
- 婢(意味:maid)
はそれぞれ女性のニュアンスを持った3文字になります。
そして、これらの文字を学んだ後で、
- 学んだ文字の確認テスト
妹、妈、婢の意味をちゃんと記憶しているか確認 - 新しい文字の意味の推測テスト (4択の選択問題)
妃の意味は? → A.Mirror、B.Princess、C.Ape、D.Speech - 抽象的な概念の確認テスト
3文字に共通する”女”は何を意味するのか?
の3つのテストを受けます。最初に学んだ文字に共通する”女”の意味が女性だと抽象的に解釈していれば、新しい”女”がついた文字の意味も推測できますし、”女”の意味も答えることができる訳ですね。
それでこの研究では昼寝の効果を確かめるために、勉強とテストの間で
- 勉強後に90分昼寝をするグループ
- 勉強後に90分昼寝無しで待つグループ
- 勉強後に90分間隔を空けてから90分昼寝をするグループ
- 勉強後に90分間隔を空けてから90分昼寝無しで待つグループ
の4通りの昼寝のパターンを用意しています。これらのグループで昼寝後の抽象化テストの問題にどれだけ差が出るのかを比較した訳ですね。
結果:
実験の結果として、3つのテストのスコアを見てみると次のようになっています。
学習済み文字 | 新しい文字 | 抽象概念 | |
90分昼寝 | 8.53 | 8.27 | 7.60 |
90分待ち | 8.36 | 6.64 | 4.50 |
90分待ち⇨90分昼寝 | 8.00 | 8.45 | 7.91 |
90分待ち⇨90分待ち | 8.26 | 6.91 | 5.82 |
これらの結果から分かることは、
- 新しい文字の意味を推測する成績は、昼寝有りのグループの方が高かった
- 文字に共通する抽象概念の理解も、昼寝有りのグループの方が高かった
ということ。面白いことに昼寝をすることで学習した内容の抽象化が促進されているわけですね。昼寝のタイミングを90分だけ遅らせても効果は変わっていません。なので、午前中に学んだことは、お昼寝をすることでうまく整理して抽象化ができそうですね。
まとめ
本稿では「昼寝と知識の抽象化」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 睡眠は記憶を整理して定着させるのに必要なことで、昼寝も学習にとって良い効果がある
- 昼寝をすることで午前中に学んだ知識の抽象化を促進することができる
ということ。
昼寝は健康に良かったり、午後のパフォーマンスアップに良かったりと良い効果が満載です。ただし、お昼に長時間寝すぎると、寝起きに頭が働かなくなってしまったり、夜に寝付きにくくなってしまったりします。なので、夜の睡眠をしっかりととりつつ、20分くらい昼寝をするのが良いでしょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Relational Memory: A Daytime Nap Facilitates the Abstraction of General Concepts