間違った記憶は目標に向かっているときに作られやすい?という研究
人の記憶は曖昧なもので、昨日の食事の内容ですらパッと答えるのは意外と難しいでしょう。そして、人の記憶でもっと厄介なのが、事実でないことをあたかも本当にあったかのように、記憶を間違って定着してしまうことがある点です。遠い昔のことになると、友達から聞いた話を、あたかも自分が経験したことのように覚えてしまうこともありますよね。
そこで本稿は、
- 間違った記憶が形成されやすいのはどんなときなのか?
について調べてくれたルーヴェン大学らの研究を見ていきましょう。
間違った記憶と感情・ゴール
ルーヴェン大学の研究では、間違った記憶が形成に影響する要因として、感情とゴールの二つに注目しています。
感情と間違った記憶
これまでの研究で、意図的に事実でないことを想像すると、後からその想像があたかも事実であったかのように感じてしまう現象が確認されています。この現象には感情も深く関わっていて、想像の中に感情が含まれるとより間違った記憶が起こりやすくなることが分かっています。例えば、「みんなの前で失敗した時のことを想像する」よりも、「みんなの前で失敗したときに、どれだけ恥ずかしい思いをするかを想像する」と、感情まで具体的に想像した方が間違った記憶になりやすいわけです。
それで、ルーヴェン大学の研究では、感情の種類に注目していて
- ポジティブな感情
- ネガティブな感情
の二つで、より間違った記憶を作りやすい感情はどちらか調べています。
ゴールと間違った記憶
さらに、ルーヴェン大学の研究では、
- ゴールを達成/失敗した結果の記憶
(達成感や幸せ、後悔や挫折感など) - ゴールへ向かっている最中の記憶
(達成への希望、達成への不安など)
の2種類での間違った記憶の作られやすさが変わるのではないかと仮説を立てています。
何かのゴールに向かうということは、意識をそちらに注目させるということ。なので、ゴールに関連する記憶は明確に覚えられる一方で、ゴールとは関係ない記憶は曖昧になって間違えやすいと考えたわけですね。
実験:間違った記憶が作られやすいときとは?
ルーヴェン大学の研究では、上記の仮説を確かめるために、321人を対象に記憶の実験を行っています。
この実験では、ゴールと感情の組み合わせとして
- 希望:ゴールへ向かうポジティブな感情
- 幸福:ゴールを達成したポジティブな感情
- 恐怖:ゴールへ向かうネガティブな感情
- 絶望:ゴールに失敗したネガティブな感情
の4パターンに注目して、参加者をグループ分けしています。
実験の方法としては
- 自分の割り当てられた感情に注目して、2人のカップルのスライドショーをみる
- これらのスライドショーについて、以下のような状況について想像してもらう
①スライドショーに登場した事実のシチュエーション
②スライドショーになかった偽のシチュエーション
③ゴールに関連するシチュエーション
④ゴールに関連しないシチュエーション - スライドショーの記憶を事実通りに記憶できているか試験をする
となっています。参加者は手順2で色々と想像するわけですが、グループによってこれらの想像が間違った記憶としてどれだけ定着しやすいのかを分析したわけですね。
結果1:感情と間違った記憶
実験の結果を見てみると、まず最初に
- ポジティブな感情に注目するか、ネガティブな感情に注目するかは間違った記憶の形成には関係なかった
ということ。他の研究ではネガティブな感情の方が視野を狭めるので、間違った記憶を形成しやすいということが言われています。例えば、事件などのショッキングな場面で、記憶を間違いやすかったりしますよね。しかし、今回の研究ではこうした効果は確認されなかったようです。
結果2:ゴールと間違った記憶
続いて、ゴールと間違った記憶の関係については、
- ゴールへ向かっている感情に注目したときに、そのゴールとは関係ない記憶を間違っていることが多かった
- ゴールへ向かっている感情に注目したときは、ゴールに関する記憶については正しく記憶できている自信が高かった
ということ。
つまり、ゴールに意識を集中すると視野が狭まるので、ゴールに関係ないことはあまり正確に記憶できなくなってしまうわけですね。人の話でもあまり注意して聞いていないと、「あれ、前にこんなこと言っていなかったっけ?」と間違って記憶しやすいですよね。なので、人はしっかりと意識を向けていないことは、間違って記憶しやすいというポイントに注意をしましょう。
まとめ
本稿では「感情・ゴールと間違った記憶」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 人はゴールへ意識を集中しているときには、ゴールと関係ないことは間違って記憶しやすい
- ネガティブな感情のときに記憶を間違いやすいという研究もあるが、今回の研究では確認されなかった
ということ。
全てを記憶することは不可能なので、何を記憶して何を記憶しないかの取捨選択が大切になります。ちゃんと覚えておかないといけないことに対しては、間違って覚えないように意識をちゃんと向けるようにしましょう。人の名前を間違えやすい人は、名前にしっかりと意識を向けるようにすると良いわけですね。
以上、本稿はここまで
[参考文献]
*1 : Emotion and false memory: How goal-irrelevance can be relevant for what people remember