運動は脳の働きをブーストしてくれるのか?についての研究
運動をすれば脳の機能はアップして、頭が良くなります。これは「脳を鍛えるには運動しかない」という本でも言われていることですね。
ここで、脳の機能の向上には二つの意味が考えられて
- 長期的に脳が成長していくこと
- 短期的に脳の機能がブーストされること
があると思います。
例えば、カフェインを飲んだときに脳が一時的に覚醒するのは短期的なブーストの方ですね。
それで、運動がボケ防止に良かったりと、長期的に脳を維持・成長させるのに良いことはわかっています。そこで、本稿ではもう一方の「運動は短期的に脳の機能をブーストしてくれるか?」について、ジョージア大学の研究(*1)を参考にお話ししていきたいと思います。
運動と脳のブースト
ジョージア大学の研究(*1)では、運動と認知機能のパフォーマンスの関係を調べた研究を40件集めて、メタ分析という手法でまとめてくれています。
それで、一概に運動と認知機能といっても様々な種類があって、研究によっても実験方法に違いがあったということで、それらの違いによる効果の差についても調べてくれています。具体的には次のような違いについて調べてくれているんですね。
- タイミング
運動中と運動の後で効果に違いは出るか - 運動の長さ
運動の継続時間で効果に違いが出るか - 運動の種類
ランニングとサイクリングで効果に違いがあるか? - 認知テストの種類
どんな種類の認知機能が運動によりブーストされるのか?
それでは、この研究でどのようなことが分かったのかを見ていきましょう。
運動中の認知機能の向上
まず、運動の最中に認知機能のパフォーマンスがどう変わったのかというと、
- 運動中には認知機能は少し低下する(効果量Δ=−0.14)
という結論が得られています。
しかし、運動の種類や時間によってはプラスの効果になることも分かっていて、
- 20分以上運動を続けた場合は、認知機能は向上する
(運動を開始して最初の20分は認知機能は低下してしまう) - サイクリングの場合は認知機能は向上する
(ランニングの場合は低下してしまった)
ということなんですね。
これらの傾向から分かることは、運動をしながら認知機能の向上効果を得たい場合には、「サイクリングのような負荷の軽めの運動を長時間実施すればいい」ということですね。逆にランニングのような負荷の大きな運動をしている間は、他のことに頭を使う余裕がなくて、認知機能は低下してしまうようですね。
運動後の認知機能の向上
そして、運動後に認知機能がどう変わったのかというと
- 運動後には認知機能は少し向上した(効果量Δ=.20)
ということ。
そして、運動の種類による違いがどうだったのかというと
- ランニングでもサイクリングでも運動後には認知機能は向上した
(サイクリングの方が効果は高かった)
ということで、運動の種類に関わらずに、運動後は認知機能は向上するということなんですね。
運動中は運動そのものに脳のリソースが使われますが、運動をやめた後ではそれらのリソースが解放されるので、認知機能はランニングのような負荷の高めの運動でも向上したのかもしれませんね。
どんな認知機能が向上するのか?
認知機能の種類によって、運動がパフォーマンスを上げてくれる場合もあれば、逆にパフォーマンスを下げてしまう場合もあるようで、それらの傾向としては
- 記憶関係のタスクは運動でパフォーマンスがアップした
- 素早い情報処理や実行機能が必要なタスクは運動は効果が小さかった
ということです。
なので英単語を覚えたいときなんかは、軽く運動しながら暗記するのがいいということですね。一方で、難しい数学の問題を解くみたいな複雑で集中力が必要なタスクだったり、高速な反応時間が求められるタスクには運動はあまり効果はないようです。
まとめ
本稿では「運動は脳機能をブーストしてくれるのか?」についてお話をしました。
ポイントをまとめると
- 運動中は軽い負荷で20分以上を継続すると、脳機能はアップする
- 運動後はどんな運動でも、脳機能はアップする
(軽めの運動の方が効果は高い) - 運動で特に向上するのは、記憶力関係の脳機能
ということですね。
ただし、効果量としては小さめなので、運動後に一部の脳機能が少しアップするくらいで考えるのが良いと思います。
これらの効果を高めるためには軽めの運動が大切ということ。休憩がてら少しウォーキングするとかでも良さそうですね。また、ランニングと比べてサイクリングの方が効果が高かったということで、机の下におけるタイプの小さなエアロバイクなんかは効果的なのではないでしょうか。運動不足の解消にもなるので、仕事中とか勉強中とかに一緒に漕いでみると面白いと思います。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : The effect of exercise-induced arousal on cognitive task performance: A meta-regression analysis