チームに競争ではなく協力を生むには、返報性の原理を使おう
仕事ではパフォーマンスをランク付けされることがあります。例えば、営業成績のランキングなんかがそうですね。
ランキングには良い効果があって
- パフォーマンスの評価の基準が明確になる
- パフォーマンスを向上させようというモチベーションが高まる
- パフォーマンスの高い人をチームに留めることができる
などなどです。
一方で、物事には良い面もあれば悪い面もあるもので、
- パフォーマンスの低い人が不平等感を感じやすい
- チームワークよりも自分の成績を優先しがちになる
という負の側面もあります。
特に個人のパフォーマンスが上がっても、チームワークが悪くなってしまうと、チーム全体としてマイナスになってしまうことも考えられます。
そこで、本稿ではランキングの負の側面を取り除いて、競争ではなく協力をするチームを作る方法について、ボッコーニ大学の研究を参考にお話ししていきたいと思います。
ランキングの負の側面
ボッコーニ大学の研究では592人をチームに分けて、チームの利益を取るか自分の利益を取るかを選択するタスクを行っています。
どのような選択かというと、ランダムに決められた他のチームメンバーに対して、
- 自分のポイントを2ポイント使って、相手に5ポイントあげる
- 何もしない
の2択を繰り返して行ってもらいます。
相手にポイントをあげた方がチーム全体のポイントは上がりますが、自分のポイントは減ってしまいます。最終的には自分のポイントに応じて報酬がもらえるということで、自分の利益を優先する人は何もしない選択肢を選んで、ポイントを貯めようとするわけですね。
それで、この選択は相手を変えて合計で80回繰り返していて、40回の時点で各メンバーの成績を公開するんですね。このとき、成績の公開の仕方が二通りあって、
- ポイントの成績のみを公開する
- ポイントの成績と、相手にポイントをあげた頻度も公開する
となっています。1つ目は単純なパフォーマンスのランク付で、2つ目はその人がどれだけ他の人に協力しているのかも公開しているわけですね。
結果:
その結果が次のグラフとなっています。
相手にポイントを上げる確率(縦軸)が、選択回数(横軸)と共にどう変化するのかを表していて、
実線がポイントの成績のみを公開した場合
点線が相手にポイントをあげた頻度も公開した場合、
となっています。
グラフから分かるのは
- 成績のランク付だけでは、相手にポイントをあげる確率が回数と共に減っていってしまった
- 相手を助けた頻度も公開すると、チーム全体で相手にポイントを上げる確率は上がっていった
ということです。
つまり、成績を公開するだけだと、チーム全体のポイントよりも自分のポイントを高めることを優先してしまって、チームワークが低下してしまった。一方で、他の人を支援した回数も公開すると、逆に相手にポイントを上げる確率は高まって、チームワークが良くなったということですね。
返報性の原理
それでは、なぜ相手を支援した回数を公開するとチームワークが高くなったのか?というと、返報性の原理が働いているからなんですね
返報性の原理とは、「相手に親切にされたら、自分のお返しをしなければいけないと感じる心理」のことです。知り合いからお土産をもらったら、自分もいつかお返ししないといけないと感じますよね。
先の研究でも
- 相手を支援する確率の高い人ほど、逆にポイントを支援してもらえる確率が高かった
ということが分かっています。チームのためにポイントを使ってくれる人には、自分も協力したいと感じているわけですね。相手を支援した頻度を公開したグループでは、この協力の輪が広がってチームワークが向上していったということです。
逆に、最初は相手をよく支援していた人も、他の人から全然ポイントがもらえないことに気づくと、次第に自分も支援することをやめてしまったという現象も起きています。まさにこれがポイントの成績のみを公開したときに起こった現象で、どんどんチームワークが低下してしまったわけですね。
返報性は持続しやすい
そして、返報性の原理は一度定着すると持続しやすい性質があります。
親切をお返しすると、次は相手が「お返ししなくては」となるので、終わりなく相互のやりとりが続くんですね。これによって次第にお互いの仲も深まっていくわけです。
これは仕事のチームでも大切なことで、一度相互に支援しあえる文化を作ることができれば、そのチームのチームワークはどんどんと深まっていくことが期待できるわけですね。
そのためにも、先の研究で分かったように、誰がどのようにチームを助けてくれるのかを、チームで共有ができればいいということですね、
まとめ
本稿では「競争でなく協力を生むチームに必要なこと」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- ランク付のようなパフォーマンスの公開は、個人のパフォーマンスは高めても、チームワークを悪くしてしまう
- チームのための行動を増やすには各メンバーがどれだけチームを助けてくれるのかを共有するのが良い
ということですね。
お互いに助け合えるチームを作るには、お互いがどれだけ助けられているのかに気づけるようにしましょう。それができれば、自分からチームにGiveすることでチームワークは高まっていくと思います。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1: Robust Systems of Cooperation in the Presence of Rankings: How displaying prosocial contributions can offset the disruptive effects of performance rankings