ピアプレッシャーで仕事の生産性が向上するかは、報酬の渡し方でも変わるという研究

ピアプレッシャーとは、周りの人から監視されていたり、周りの人に競争意識を持っているときに感じるプレッシャーのことで、日本語では同調圧力ともいいます。

例えば、上司の目が届く範囲ではちゃんと仕事をしなきゃというプレッシャーがありますが、上司がいなくなるとプレッシャーもなくなってちょっと心が軽くなったりしますよね。また、隣の席の人が次々と仕事をこなすのを見て、自分も負けないように頑張らなければと思うのもピアプレッシャーの一種です。

それで、職場の個人の生産性を可視化したときにピア・プレッシャーが生産性を上げてくれるのかについては意見が分かれるところで

  • 自分の生産性と同僚の生産性が情報が目に見える形で共有されると、もっと頑張らなければというモチベーションが高まって生産性が向上するのでは?
  • 他人と自分を比較することには悪い側面もあるので、自分の生産性が他の人よりも低いことがわかった場合には、自信や有能感が失われて生産性は落ちてしまうのでは?

という感じでどちらの意見も理解できるんですね。

ピアプレッシャーと生産性

そこで、ラヴァル大学の研究(*1)がピアプレッシャーと生産性の関係を実験して調べてくれています。

この実験では、160人の参加者を集めて、ゴルフのスコアカードの点数を40分間ひたすらパソコンに入力してもらう仕事を行ってもらいます。

このときに参加者は4つのグループに分けられていて、

  1. 固定報酬 + ピアプレッシャー無しグループ
    ・データの入力量に関わらず固定で10ドルの報酬がもらえる
    ・これまでの自分のデータ入力数のみが分かる
  2. 固定報酬 + ピアプレッシャー有りグループ
    ・データの入力量に関わらず固定で10ドルの報酬がもらえる
    ・これまでの自分のデータ入力数とペアの相手の入力数の両方が表示される
  3. 変動報酬 + ピアプレッシャー無しグループ
    ・入力したデータ数×0.1ドルの報酬がもらえる
    ・これまでの自分のデータ入力数のみが分かる
  4. 変動報酬 + ピアプレッシャー有りグループ
    ・入力したデータ数×0.1ドルの報酬がもらえる
    ・これまでの自分のデータ入力数とペアの相手の入力数の両方が表示される

となっています。

これらの報酬の違いとピアプレッシャーの有無でどれだけデータ入力のスピードが変わるのかを比較したわけですね。

結果1

それで、これらの4つのグループの仕事の生産性(時間内にミスなくデータを入力した数)が次の表になっています。

平均データ入力数
固定報酬 + ピアプレッシャー無し85.33
固定報酬 + ピアプレッシャー有り82.20
変動報酬 + ピアプレッシャー無し107.18
変動報酬 + ピアプレッシャー有り114.05

この結果から分かるのは

  • 固定報酬よりは変動報酬の方が生産性は高かった
  • 固定報酬の場合には、ピアプレッシャーで生産性が落ちてしまっている
  • 変動報酬の場合には、ピアプレッシャーで生産性は向上している

ということですね。単純にピアプレッシャーの有無で生産性は向上したりはせず、報酬の仕組みといった条件次第でピアプレッシャーの効果が変わるという結果になっていますね。

結果2

それで、この研究では、

  • ピアプレッシャーの強さによっても効果が変わるのでは?

ということも分析してくれていて、その結果が次のグラフになっています。

■男性の場合

■女性の場合

左側のグラフが固定報酬の結果のグラフで、右の結果が変動報酬の結果のグラフになります。特徴的なのは固定報酬のグラフが逆U字型のカーブを描いていることで、これらグラフから分かるのは、

  • 固定報酬の場合には、ピアプレッシャーが弱すぎる場合と、ピアプレッシャーが強すぎる場合に、生産性は大きく低下してしまう
  • 変動報酬の場合には、ピアプレッシャーで生産性は向上するが、ピアプレッシャーが強すぎるとこの効果も無くなってしまう
  • 女性よりも男性の方がピアプレッシャーの影響を大きく受ける

ということですね。

なので、ピアプレッシャーを生産性の向上につなげたいのであれば、成果の応じた報酬にするとともに、ピアプレッシャーが強くなりすぎないように注意する必要があるということですね。

まとめ

本稿では「ピアプレッシャーと生産性」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 固定報酬ではピアプレッシャーが強すぎたり弱すぎたりすると、生産性は低下してしまう
  • 変動報酬ではピアプレッシャーで生産性は向上するが、ピアプレッシャーが強くなりすぎると効果も薄れてしまう
  • なので、ピアプレッシャーで生産性を向上するには、適度なレベルにするのと、成果に応じた報酬にするの2点に注意しよう

ということですね。

ピアプレッシャーで単純に生産性が向上することはなく、他の条件次第で効果は変わるということでした。今回の研究では報酬のタイプによる違いを調べてくれていましたが、タスクの種類やチームの構成など他の条件でもピアプレッシャーの効果が変わることもあるかもしれません。そこら辺はもう少し調べる必要がありそうですね。


[参考文献]

*1 : Peer Pressure, Incentives, and Gender: An Experimental Analysis of Motivation in the Workplace

Naoto

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