失敗したくないもモチベーション?失敗への恐怖がパフォーマンスを向上させることもある
人生は成功もあれば失敗もあって、ずっと成功し続けることはできません。
それで、心理学の実験では、成功や失敗がその後のパフォーマンスにどのように影響するのかを調べてくれたものもあって
- 成功を経験するとその後のパフォーマンスが向上する
- 失敗を経験するとその後のパフォーマンスが下がる
という傾向があるということ。
しかし、これらの実験には弱点もあって、パフォーマンスの測定は実験室で行う認知タスクで実施したものが多いということなんですね。そのようなタスクは参加者にとってあまり大切な意味を持ちませんから、成功も失敗もそこまで気にしない可能性があるわけですね。
自分にとって本当に重要なタスクだったら、絶対に失敗しないという気持ちが強くなって、失敗への恐怖が逆にパフォーマンスを向上させてくれる可能性もあるわけです。
そこで、本稿では「失敗への恐怖とパフォーマンスの関係」について、メリーランド大学の研究を参考にお話ししたいともいます。
モチベーションの2つのタイプ
成功や失敗がタスクのパフォーマンスを上げたり下げたりするのは、成功や失敗によってタスクへのモチベーションが変わるからです。このときに、モチベーションには2つのタイプがあると言われていて、この違いを抑えておくことが成功・失敗とタスクのパフォーマンスの関係を知る上では大切です。
タイプ1:調和モチベーション
これは自分に調和したモチベーションという意味で、自分のアイデンティティとタスクが合っているときに感じるモチベーションになります。何か理由があってやらされるのでなく、自分が好きでそのタスクに取り組んでいるときはこのタイプのモチベーションが高いときですね。
このタイプのモチベーションは心理的にも良いもので、
- 自尊心を高めてくれる
- フロー状態(集中状態)に入りやすい
- 感情のコントロールが上手くなる
といった良い効果が確認されています。
タイプ2:脅迫性モチベーション
脅迫性モチベーションは自分が好みとは関係なくても、失敗して恥をかきたくないからタスクをやらざるおえないというモチベーションになります。
この脅迫性モチベーションは心理的には悪い効果も多く
- 自尊心を低下させてしまう
- 自分らしさと脅迫性モチベーションで摩擦を起こしてしまう
- 失敗の恐怖に敏感になってしまう
ということがあるようです。
2つのタイプの目的の違い
それで、2つのタイプではタスクに取り組むモチベーションの目的に違いがあって、
- 調和モチベーションは自分の成長を目的にする
- 脅迫性モチベーションは失敗しないことを目的にする
ということなんですね。
例えばスポーツや勉強で言えば、調和モチベーションの人は「技術の向上や知識の習得」を目的にするのに対して、脅迫性モチベーションの人は「恥をかかないことや、他人に勝つこと」と目的にしてしまうということです。
失敗への恐怖とモチベーション
それで、失敗への恐怖がタスクのパフォーマンスにどのように影響するのかを、モチベーションのタイプ別に調べてくれたのがメリーランド大学の研究(*1)です。
この研究では4つの実験を行なっていて、
- 参加者を集めてモチベーションのタイプを測る
- 「成功に関する情報」または「失敗に関する情報」を与える
- タスクに取り組んでもらってパフォーマンスを測定する
というような感じで、「失敗に関する情報」を受けて失敗への恐怖が高まった人のパフォーマンスがどう変わるのかを測定しています。
実験の結果
そして、実験の結果として分かったことは、
- 調和モチベーションが強い人は成功や失敗の情報を受けても、タスクのパフォーマンスは変わらず維持される
- 脅迫性モチベーションが強い人は失敗の情報を受けると、タスクのパフォーマンスが向上する
ということ。
脅迫性モチベーションの強い人は失敗の恐怖が増すと、それを回避しようと頑張ってパフォーマンスが向上するようなんですね。
さらに、4つの実験ではもう少し詳しく脅迫性モチベーションと失敗の恐怖の関係を調べていて
- 脅迫性モチベーションの強い人は、失敗の情報とあまり関係のないタスクのパフォーマンスも向上した
- 脅迫性モチベーションの強い人は、失敗に関する単語を見るだけでタスクのパフォーマンスが向上した
- 脅迫性モチベーションの強い人は、失敗の恐怖があってもどうでもいいタスクのパフォーマンスは向上しなかった
ということなんですね。
つまり、大事なタスクで失敗したくないという気持ちが強いほどに、失敗の恐怖はパフォーマンスを上げてくれる可能性があるということですね。
まとめ
本稿では「失敗への恐怖とタスクのパフォーマンス」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 脅迫性モチベーションの強い人は、失敗の恐怖が強いほどタスクのパフォーマンスは向上する
- 調和モチベーションの強い人は、失敗の恐怖はあまりパフォーマンスに影響しない
プレッシャーになり過ぎないくらいの適度な失敗への恐怖は必要なのかもしれませんね。おそらく「失敗したくないから挑戦すらしない」となると話はまた別だと思います。思い切って少し飛び込んでみれば、意外と頑張れて高いパフォーマンスが発揮できることもあるかもしれません。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1: Driven by Fear: The Effect of Success and Failure Information on Passionate Individuals’ Performance