健康メッセージの研究に学ぶ、関心を持たせるメッセージの伝え方とは?
健康的な食生活を推進するメッセージは、あちこちで見かけると思います。
「一日に野菜を800g食べよう」とか
「肉は食べ過ぎないようにしよう」とかですね。
肥満などの生活習慣病が増えるのに連れて、健康的な食生活により大きな関心が寄せられているわけですね。しかし、問題はこれらのメッセージの有効性で、実際にメッセージを見るだけで食生活が改善できたという人は少ないのが現実だと思います。
そこで、本稿では
- 健康的な食生活の推進メッセージに、より強い関心を持ってもらって、実際に食生活を変える気を起こさせるには、どのようなメッセージがいいのか?
についてお話ししていきたいと思います。
より強い関心を持たせるメッセージの中身とは?
食生活の改善メッセージに関する研究(*1)を見てみると、この研究ではメッセージの中身として
- 悪い食生活の結果として、
①具体的に病気になること注目するのか?
②病気になることで人生の幸福感が損なわれることに注目するのか? - その悪い食生活の結果を
①事実として伝えた方がいいのか?
②仮説として伝えた方がいいのか?
に注目しています。特にこの研究ではレッドミートを減らすことを取り上げていて、次の4つのパターンのメッセージを実験しています。
- 具体的病気 × 事実
「レッドミートの食べすぎで、ガンになる確率が向上します」 - 具体的病気 × 仮説
「もしレッドミートを食べ過ぎると、ガンになるかもしれません」 - 幸福 × 事実
「レッドミートの食べ過ぎは人生の幸福感を減らします」 - 幸福 × 仮説
「もしレッドミートを食べ過ぎると、人生の幸福感が低下するかもしれません」
それで、この研究では実際に247人の参加者に4つのメッセージのどれかを見てもらって、そのメッセージにどれだけ関心を持ったか、そしてメッセージを受けてレッドミートを食べようという気がどれだけ減ったのかを測定しています。
結果1:具体的な病気に注目する場合
まず最初に具体的な病気の2つのメッセージの比較を見てみると、
- 直接の悪い効果は、仮説として伝えるよりも、事実として伝えた方が、メッセージの関心を高めて、食生活を改善させる気も高める
ということが分かっています。タバコの害とか、飲み過ぎの害とかと同じで、直接の悪い効果はズバッと事実で伝えた方が心に響くようですね。
ただし、このズバッとしたメッセージには弱点もあって
- 事実として伝えることは、自己効力感の高い人には効果があっても、自己効力感が低い人にはあまり効果がない
ということも分かっています。
自己効力感とは自分なら食生活を改善していけるという自信のようなものです。悪い事実がズバッを伝えられても、食生活を改善する自信がない人は、そのメッセージにあまり関心が持てないようですね。これはヘビースモーカーの人に、タバコの害をいくら説明してもなかなか聞いてくれないのに似ていますね。
結果2:幸福に注目する場合
次に具体的な病気でなく、その先で間接的に起こる幸福感の低下について注目した場合には
- 事実として伝えるよりも、仮説として伝えた方が、メッセージの関心を高めて、食生活を改善させる気も高める
ということが分かっています。
面白いことに具体的な病気の場合とは逆の結果になっています。病気の場合には具体性があるので事実として伝えられるとグサッとくるのに対して、「幸福感が低下する」は少し曖昧なので、仮説形式の方があっているのかもしれませんね。
そして自己効力感を考慮した結果を見ると
- 幸福×仮説のメッセージは自己効力感が高い人に特に効果があるが、自己効力感が低めの人でも十分効果はあった
ということ。なので、自己効力感が低くて自分はタバコはやめられないと考えている人には、タバコの直接の害を伝えるよりも、自分の幸福とか家族の幸福とか、タバコで幸福が損なわれていることをメッセージとして伝える方が効果が高いということですね。
まとめ
本稿では「健康推進メッセージの効果的な伝え方」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 具体的な病気のような直接の害をメッセージに入れるなら、事実形式でズバッと伝える方が効果的
- 幸福といった間接的な害をメッセージに入れるなら、仮説形式で含みを持たせた方が効果的
- 自己効力感が高い人には具体的な害×事実でグサッと伝えて、自己効力感が低い人には幸福×仮説でモアっと伝えるのが良い
ということですね。
今回の研究は健康推進メッセージでしたが、これは他にも色々な場面で使えるテクニックなのかもしれませんね。例えば、仕事のフィードバックで、部下が自信を持っている分野に対してはズバッと言ってあげて、逆に自信のない分野については将来のことを見据えてモアっと伝えるとかも効果がありそうですね。
[参考文献]
*1 : Different Frames to Reduce Red Meat Intake: The Moderating Role of Self-Efficacy