指導してくれるメンターの有能さで、どれだけ指導される側の生産性は変わるのか?
新入社員として働き始めたときには、先輩社員がメンターとなって、仕事を実践しながら指導してもらうことが多いと思います。私が働いている会社でもメンターの制度があって、新入社員はメンターの先輩社員と1体1のペアとなって、先輩社員のもとで仕事を覚えていきます。
そこで、メンターの指導によって、指導される側の仕事の質や生産性が変わってくることは当然予測できて、
- 能力が高いメンターに指導された人の方が、その後の仕事の生産性も高くなるのでは?
ということが考えられます。
本稿では、この現象について調べてくれたワシントン大学らの研究(*1)を参考に、メンターの能力が指導される側にどれだけ影響するのかを見ていきましょう。
メンターの能力と指導される側の能力
ワシントン大学の研究では、メンターの能力と指導された人の仕事のパフォーマンスの関係を調べるために、アメリカの教師と生徒の大規模な指導データを分析しています。
この研究では、教師向けの教育プログラム(メンター付)に参加した先生のデータを取り出して、その先生の指導力の変化を生徒のデータと紐付けて分析しています。イメージとしては、日本の教育実習のようなプログラムに参加した先生の指導力が、そのプログラムで付いたメンターの能力の高さによって、どのように変化するのかを調査したわけですね。
それで、科目としては数学と英語の2科目を対象にしていて、データの規模としては、数学では指導を受けた教師1,044人と生徒78,458人、英語では指導を受けた教師944人と生徒65,632人という、結構大規模なデータとなっています。
結果:数学の教師
まず数学の教師の指導力の変化が次のグラフになっています。
横軸が教育プログラムを受けてからの年数で初年〜6年後まで描かれています。
縦軸が教師の指導力で年々指導力が向上していることが分かります。
そして、5本の線がそれぞれメンターの指導力を示していて、
- 1番上の線が、能力が標準偏差2つ分だけ高いメンター
- 2番目の線が、能力が標準偏差1つ分だけ高いメンター
- 3番目の線が、能力が平均的なメンター
- 4番目の線が、能力が標準偏差1つ分だけ低いメンター
- 5番目の線が、能力が標準偏差2つ分だけ低いメンター
となっています。
この結果から分かるのは、
- メンターの能力が高いほど、指導を受けた側の先生の能力も高くなっている
- 指導を受けた初年で、メンターの能力による指導を受けた側の能力差が大きくなっていて、年が進むにつれてこの差は小さくなっていってる
- ただし、6年後になってもまだ初年に指導してくれたメンターの能力の高さの影響は有意に残っている
ということです。
ちなみに、メンターの能力が標準偏差一つ分だけ高いと、指導を受ける側の能力は標準偏差の18%だけ高くなるということ。もう少しわかりやすくいうと、優秀なメンターについてもらった1年目の教師は、平均的なメンターについてもらった3年目の教師と同等のパフォーマンスだということ。メンターの能力の高さは思っていた以上に大きな影響を与えるようですね。
結果:英語の教師
続いて英語の教師の結果を見てみると、
という感じで、
- 数学ほど大きな差は出ていないが、全体の傾向としては同じで、メンターの能力が高いほど指導を受ける側の能力も高く、その差は年が進むほど小さくなる
ということです。
数学とはメンターの能力の影響が少し小さくなっているので、仕事の内容によってもメンターの能力の重要性は変わってくるのかもしれませんね。
まとめ
本稿では「メンターの能力が高いほど、指導を受ける人の能力も高くなるのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- メンターの能力が高いほど、指導を受けた側の能力も大きく向上する
- メンターの能力によってできる指導を受ける側の能力差は、指導から年が経過するにつれて小さくなっていくが、指導から6年経ってもまだ完全には無くならない
- 仕事の内容によって、メンターの能力の影響の出やすさは変わってくる可能性はある
ということですね。
初年から良いメンターに出会えることは、その後数年間にわたって自分のキャリアにプラスになるということで、メンターの大切さがよく分かります。メンターは初年だけに限るものでもないので、自分のキャリアに合わせて、その時々にあった有能なメンターを見つけられれば理想ですね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Effective like me? Does having a more productive mentor improve the productivity of mentees?