ゲーミフィケーションで体育の授業の成績が向上したという研究
ゲーミフィケーションは仕事や勉強などをゲーム化して楽しくしようというもので、ゲーミフィケーションをすることでモチベーションやパフォーマンスが高まる効果があることが確認されています。
それで、アリカンテ大学の研究(*1)では
- 実際に大学の体育の授業でゲーミフィケーションを取り入れたら、モチベーションや最終試験の成績は向上するのか?
を調査してくれていました。これは実験室で行う実験ではなく、実際の授業を使った現実世界での実践ということで、ゲーミフィケーションのリアルな効果を見ていきましょう。
ゲーミフィケーションと大学の授業
この研究では、大学の体育の授業の生徒127人を
- ゲーミフィケーションを取り入れたクラス(62人)
- 今までと変わらない通常のクラス(65人)
に分けてゲーミフィケーションを取り入れることでどれだけモチベーションや最終試験の成績が向上するのかを測定しています。
そして、どのようにゲーミフィケーションを取り入れたのかというと、ClassCraftというゲーミフィケーションサービスを使用しています。
このサービスでは戦士・魔術師・僧侶の中から1つのキャラクターを選んで、それぞれのキャラクターで協力しながら自分のキャラクターを育てていきます。授業のイベントに経験値が設定されていて、「授業に参加したら経験値 +10」、「他の生徒を助けたら経験値+30」、「授業に遅刻したらHP -10」と言った感じで、授業をゲーム化しているんですね。
それでこのサービスでは報酬と罰も設定ができて、「経験値が1000溜まったら試験時間+5分」とか「HPが尽きてしまったら宿題追加」みたいなことができます。生徒はこれらの報酬の獲得や罰の回避を目標にしてモチベーションを高められるわけですね。
授業は週に2〜4回で、合計で5週間(30時間)に渡ってゲーミフィケーションを実践しています。
結果1:モチベーションの向上
最初にゲーミフィケーションがモチベーションにどのように影響したのかの結果を見てみると
- ゲーミフィケーションで内発的なモチベーションは変わらなかった
- ゲーミフィケーションで外発的なモチベーションは高まった
ということ。
内発的なモチベーションは、その活動が好きで行うという内面からくるモチベーションです。ゲーミフィケーションをすると活動自体が楽しくなるので、内発的モチベーションも高まることが予測されますが、今回の実験では特に変化はなかったという結果になっています。
外発的なモチベーションは、報酬や評価などの外部要因のモチベーションです。今回のゲーミフィケーションでは報酬や経験値を設定しているので、それらを目的に授業へのモチベーションが高まったということですね。外発的モチベーションは内発的なモチベーションを下げてしまう悪い効果もあると言われていますが、今回の結果では内発的モチベーションは変化せずに維持されているのでその心配もないようです。
今回は外発的モチベーションのみ高まるという結果でしたが、モチベーションへの効果は報酬の設定やゲーム化の方法によっても変わってきそうなので、ゲーミフィケーションを実践するときはそこら辺は少し考える必要がありそうですね。
結果2:最終試験の成績
続いて、最終試験の成績が次のグラフになっています。
左の青いグラフがゲーミフィケーションの成績で、右の灰色のグラフが通常クラスの成績を表しています。左の青いグラフのほうが高い位置にあるので、
- ゲーミフィケーションで成績が高まった
ということが分かります。特にゲーミフィケーショングループの成績はグラフの下部が持ち上がっていることがわかるので、
- ゲーミフィケーションは成績が低めの生徒への効果が特に高い
ということが言えると思います。おそらく、もともと成績が悪くなりがちな生徒は、授業への関心が低くてあまり積極的に参加していないので、ゲーミフィケーションで授業への関心を高めることが成績の向上にうまく寄与したのでしょう。
まとめ
本稿では「ゲーミフィケーションを大学の授業で実践したら」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- ゲーミフィケーションで内発的モチベーションは高まらなかったが、外発的モチベーションは高まった
- ゲーミフィケーションで最終試験の成績も高まり、特に成績が低めの生徒を減らす効果が高かった
ということですね。
今回の研究で使われていた「ポイント付加」や「報酬と罰」以外にも、
- 特定の目標をクリアしたらバッジをあげる
- ポイントのランキング形式で表示する
- 対戦形式にする
などゲーミフィケーションには色々な手法があるので、内発的・外発的モチベーションへの影響を考えてうまくゲーミフィケーションを設計できればいいですね。
[参考文献]