セルフコントロール能力が他者への親切を減らしてしまうときとは?

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セルフコントロール能力とは、感情や目先の利益に囚われずに、長期的に見て自分の本当に価値のある行動を選択する能力のことです。ダイエットや勉強、仕事などセルフコントロール能力は人生の様々な場面で必要になるものですよね。

そして、今回注目するのはセルフコントロール能力と社会的な行動の関係です。社会的な行動とは、他の人や社会のための行動のことで、いわゆる自己中心的な行動とは真逆の行動になります。

それで、バル=イラン大学の研究(*1)によると

  • セルフコントロール能力で社会的な行動が増えることもあるが、場合によっては逆に自己中心的になってしまうこともある

という結果が得られていました。本稿ではこの研究を参考に、うまく自己コントロールと社会的行動のバランスをとっていく方法を学んでいきましょう。

セルフコントロール能力と社会的行動

社会的な行動というと、自分の利益を我慢して社会の利益を優先するわけですから、自分を抑えるセルフコントロール能力が必要な行動だと思えます。しかし、バル=イラン大学によると、

  • これまでの自分とは真逆の役割が割り当てられて、本来の自分が脅かされている状態では、自分を守ることを優先してセルフコントロールしてしまうのではないか?

ということを懸念しています。これが具体的にどんな状況かというと、自分ではリーダーに向いていない性格だと思っているのに、実際にリーダーに抜擢されてしまったときとかです。そうするとリーダーの役割と本来の自分の性格の間で不調和が生まれてしまって、他者を助けるよりも自分を守ることを優先してしまうと言うわけですね。

それで、この研究では実験により、自己の不調和が生まれた時のセルフコントロールについて調べています。

実験1:不調和とセルフコントロール

1つ目の実験では、172人の参加者を対象に

  • 自分が他人よりも権力を強かった経験を思い出してもらう
  • 自分よりも他人の方が権力が強かった経験を思い出してもらう

のどちらかを実施してもらっています。このときに参加者はセルフコントロール能力と普段の権力の感じ方が測定されていて、これにより次の4つのグループに分けられています。

  • 普段から権力を感じていて、自分に権力のある経験を思い出した人(調和)
  • 普段から権力を感じていて、自分に権力のない経験を思い出した人(不調和)
  • 普段は権力を感じなくて、自分に権力のある経験を思い出した人(不調和)
  • 普段は権力を感じなくて、自分に権力のない経験を思い出した人(調和)

そして、その後にグループ間で他者への親切さがどのように変わるのかを測定したんですね。

結果:

結果として分かったことは

  • 普段の権力感と思い出した時の権力感が一致した場合は、セルフコントロール能力が高い人ほど他者に親切になった
  • 普段の権力感と思い出した時の権力感が不調和を起こしたした場合は、セルフコントロール能力が高い人ほど自己中心的になった

ということ。

つまり、想定した通りに、本来の自分と今の自分の権力感に不調和が生じてしまったときは、セルフコントロールが自分を守る方向に働いて、自己中心的になってしまうということですね。なので、仕事で自分に似つかわしくない大役を務めるようになったときなんかは、自分を守るために他者に厳しくなってしまう可能性があるので注意ですね。

実験2:不調和と自己肯定

2つ目の実験では、この不調和の悪い効果をなくすにはどうすればいいのかを調べています。この実験では1つ目の実験と同様に権力の不調和を起こすのですが、このときに半分の人には

  • 自分の最も大切だと思う性格の要素が関係するポジティブな経験を思い出してもらう

という作業を行ってもらっています。これはアフォーメーション(自己肯定)と言って、不調和を起こしてしまったときに本来の自分を思い出させてあげるような作業になっているんですね。

結果:

それでアフォーメーションを追加して実験をした結果どうなったのかというと、

  • 権力の不調和を起こしたけどアフォーメーションをしなかった人は、セルフコントロールが高いほど他者への親切さが低下してしまった
  • 権力の不調和を起こしたときにアフォーメーションをした人は、セルフコントロールが高いほど他者への親切さが向上した

ということ。

なので、不調和を起こして本来の自分を見失ってしまっているときは、意図的に本来の自分を肯定してあげることで、セルフコントロールの方向を正すことができるということですね。

まとめ

本稿では「セルフコントロール能力が他者への優しさを奪ってしまうとき」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 本来の自分と今の自分の役割で不調和が生じたときには、セルフコントロール能力が高い人ほど他人には厳しくなってしまう
  • この効果を無くしたいなら、本来の自分を思い出して肯定してあげる作業をすると良い

ということですね。

特に仕事で権力が高まるようなポジションに昇進したときには、自分が他人に厳しくなりすぎないように注意した方が良さそうですね。そんな時は、自分の役割に振り回されないように、本来の自分を思い起こしてみると良いでしょう。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : When (state and trait) powers collide: Effects of power-incongruence and self-control on prosocial behavior

Naoto

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