ポジティブ心理学の幸福感向上テクニックは発展途上国でも通用するのか?

ポジティブ心理学では幸福感を高める方法が研究されていて、

  • 感謝の手紙を書く
  • 今日の良かったことを日記に3つ書く
  • 強みを活かす

などの様々な方法が有効であることがわかっています。

ポジティブ心理学の幸福感向上テクニックの良い点は手軽さで、日記を書いたり、自分の強みを書き出したりなど、本格的なセラピーを受けることなく自分自身でも実践していけるようなものが多いんですね。

しかし、裏を返すとその手軽さゆえに、認知行動療法などの他の手法と比べて効果が限られているのではないかということも考えられます。

そこで、メルボルン大学らの研究(*1)では

  • 発展途上国のスラムにいるような人でも、ポジティブ心理学で幸福感が向上するのか?

について調べてくれています。本稿ではこの研究を参考にには、ポジティブ心理学の限界について見ていきましょう。

ポジティブ心理学と幸福感

この研究ではケニアのスラム街に住む220人を対象に、ポジティブ心理学の幸福感の向上テクニック3つを実践してもらっています。具体的にどんなことを実施したのかというと、

  1. ありがたさの書き出し
    過去を振り返って、自分が最も嬉しく思ったことやありがたく思ったことを一日に5つ書き出す。これは長期的に続けると効果が高まることがわかっているので16日間毎日行う。
  2. 自己肯定
    自分の人生を振り返って最も成功した経験、あるいは最も誇れる経験を詳細に書き出す。その後、自分にとって最も大切な価値観は何か、そしてなぜその価値観が大切なのかを深く書き出す。これは最終日に一回だけ行う。
  3. 願望の向上
    自分と同じような境遇の人が努力して成功するストーリーを読んで、自分でも成功できるという自己効力感を高める。その後、自分の将来について思い浮かんだことを5分間で書き出す。これも最終日に一回だけ行う。

という感じです。どれも5分〜10分程度で終わる簡単なものですが、過去の研究では幸福感の向上に効果があることがわかっているものです。

それで最終的な結果として測定されたのは

  • 幸福感は向上したのか?
  • 意思決定能力は向上したのか?

の2点です。

貧困層で幸福感が低い人は意思決定能力が低下しがちで、そうなるとお金の使い方などの決断が下手になってしまうので、いつまでも貧困層から抜け出せないという負のループに囚われてしまいます。なので、ポジティブ心理学のテクニックで幸福感と一緒に意思決定能力が向上するかは、貧困層の人にとっては結構重要なポイントなんですね。

結果:ポジティブ心理学と幸福感・意思決定

結果としてわかったことは

  • ポジティブ心理学のテクニックにより、参加者の感謝の気持ちは高まった
  • 幸福感の向上はほんの少しで統計的に有意でなかった
  • 意思決定能力もほとんど変わらなかった

ということ。

感謝の気持ちは高まっているので、確実にポジティブ心理学のテクニックは実践されて、参加者のメンタルに届いていたようですが、それが最終的に幸福感や意思決定能力までは向上しなかったという残念な結果になっています。

認知行動療法などのしっかりと時間とリソースをかけて行う方法では、発展途上国でも幸福感や意思決定能力の向上効果があることが確認されています。認知行動療法は、具体的に行動を変えることをターゲットにしているので、貧困層に陥ってしまった人でも問題行動を改善していくことができるのかもしれませんね。

一方でポジティブ心理学のようなテクニックは、日記に書き出すなどして感情面を豊かにしてくれるかもしれませんが、具体的に行動を変えるほどの力強さはないのかもしれません。この手軽さが限界となって、今回の研究では幸福感や意思決定能力までは向上しなかったのでしょう。

まとめ

本稿では「ポジティブ心理学のテクニックは発展途上国でも効果があるのか?」についてお話ししました。

ポイントをまとめると

  • 発展途上国でポジティブ心理学のテクニックには、感謝の気持ちなどの一部の側面を高める効果はあっても、幸福感や意思決定能力まで高める効果はなかった
  • これはポジティブ心理学の限界を示していて、ポジティブ心理学はその手軽さゆえに、メンタル面の問題が深刻な場合にはあまり効果はない

ということですね。

今回の研究で使われてポジティブ心理学のテクニックも先進国ではちゃんと効果があることは確認されています。なので、自分のメンタルの落ち込みの深刻さに応じて、ポジティブ心理学のような手軽なテクニックを使うのか、認知行動療法のようなしっかりとした治療を受けてみるのかを使い分けることが大切ということですね。

以上、本稿はここまで。


[参考文献]

*1 : Can Positive Psychology Improve Psychological Well-being and Economic Decision-Making?

Naoto

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