自制心を消耗して疲れたと感じても、目標設定をすると自制心は発揮できるという研究
自制心は消耗品だという考えがあります。例えば、朝起きて元気なうちはジャンクフードの誘惑にも勝てるけど、仕事帰りで疲れているときには自制心が消耗されてしまっていて、誘惑に勝てずにジャンクフードを食べてしまうという感じですね。
過去の研究では
- 忍耐力が必要なタスク(ニンジンを食べるとか)をすると、意志力が低下して誘惑に負けやすくなる(チョコレートをたくさん食べてしまうとか)
ことが効果量d=0.61で確かに起こり得ることが確認されています。
しかし、これらは小さなサンプルサイズに研究が多くて、効果量が上振れしてしまっているのではないかという批判もあって、研究によっては
- サンプルサイズを考慮すると、実は忍耐力が消耗する効果はほとんどなかった
という結論のものもあります。
確かに現実で考えても、ダイエット中で運動をした後で「運動をして疲れたからいっぱい食べちゃおう」と誘惑に負けることもあれば、「運動の頑張りを無駄にしたくないから」と食事にもいっそう厳しくなることもあります。
つまり、自制心は消耗することもあれば、逆に強まることもあって、そこになんらかしらの他の要因が関係している可能性があるということ。この点についてヨハネス・グーテンベルク大学の研究(*1)が
- 目標設定が自制心の消耗を抑えているのでは?
ということを確かめてくれていました。本稿ではこの研究を参考に、疲れた時でも自制心を保つ方法について学んでいきましょう。
実験:意志力消耗タスクと目標設定
ヨハネス・グーテンベルク大学の研究では、自制心の消耗と目標設定の関係を調べるために、100人以上の学生を集めて2つの実験を行っています。どちらの実験でも学生は2つのグループに分けられていて
- 意志力消耗グループ
意志力を使うタスクを行う→さらに意志力を使うタスクを行う - コントロールグループ
意志力がいらないタスクを行う→意志力を使うタスクを行う
となっています。意志力消耗グループでは、1つ目のタスクで意志力がすり減ってしまうので、2つ目のタスクのパフォーマンスが低下してしまうことが予想されるわけですね。
この研究では目標設定にも注目しているので、2つ目の意志力を使うタスクの目標も決めてもらっています。さらに、目標への達成意欲の影響も分析するために、2つ目のタスクに報酬を用意するケースと報酬なしのケースの両方で実験を行っています。
目標があると意志力はすり減らないのか?
早速実験結果を見てみると、
- 意志力消耗グループとコントロールグループで、2つ目のタスクのパフォーマンスは変わらなかった。つまり、1つ目のタスクをしたのに意志力は消耗していなかった。
- 目標設定のレベルを確認すると、コントロールグループは甘めの目標を立てて目標通りのパフォーマンスを発揮していた。意志力消耗グループは厳し目の目標を立てていた。(ただし、目標が厳しくて目標よりかは少し劣るパフォーマンスだった)
ということ。
つまり、意志力が必要なタスクを行った後では、ストイックな気持ちになって次のタスクにより厳しい目標を立てるようになる。その厳しい目標を達成しようと頑張るので、2つ目のタスクのパフォーマンスは低下しないということですね。
報酬があるとパフォーマンスは向上するのか?
ちなみに、報酬の効果を見てみると
- 2つ目のタスクに報酬がついた場合は、コントロールグループも意志力消耗グループも、どちらも高い目標への達成意欲が向上し、パフォーマンスも向上した
ということ。報酬をつけることはベタなモチベーション向上方法ですが、それは疲れたときのタスクのパフォーマンスでも効果を発揮するということですね。
これらの研究結果をまとめると、
- 疲れにも負けずに意志力を発揮したい場合には、タスクの前に目標設定をすることと、タスクに対して報酬を用意してモチベーションを上げることが大切
ということですね。
まとめ
本稿では「意志力の消耗と目標設定」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 疲れに負けずに意志力を発揮したいときは、目標設定と報酬を活用すると良い。
- 意志力を使った後では、ストイックになってより厳しい目標を立てるようになるので、疲れているときの目標設定は次のタスクのパフォーマンス向上につながる。
ということです。
私も朝に今日やることをTodoリストにあげておくと、夜疲れていてもTodoは終わらせようと意志力を発揮できる気がします。ストレスが溜まっているときや、仕事帰りで疲れているときなど、誰にも誘惑に弱いときがあると思うので、その前には目標設定と報酬設定をするようにしてみましょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : The Benefits of Self-Set Goals: Is Ego Depletion Really a Result of Self-Control Failure?