数字への苦手意識は脳のパフォーマンス自体を落としてしまう
数学は人生の中で何かと必要なスキルの一つ。仕事で見積もりや判断をするとき、スーパーでお買い得な買い物をするとき、貯金などの人生設計をするとき、実は人生のさまざまな場面で数学は役に立ちます。
以前に紹介した投稿でも、数学ができる人は人生の判断が上手くなるので、
- 経済状況が良い
- 健康状態も良い
という傾向があることが分かっています。
しかし、学校で教わる教科の中でも、数学は特に苦手は人が多い科目でしょう。また、学校だけでなく、生活や仕事の場面でも「自分は数字が苦手だから」と、数字を避ける人もたまに見かけます。
そこで、本稿は
- 数学の苦手意識が数学の能力を低下してしまうのは、実は脳のパフォーマンス自体を低下してしまっているからなのでは?
ということを確かめたリンショーピング大学の研究(*1)とその対策について見ていきましょう。
数学の苦手意識と脳のパフォーマンス
不安や自信は脳のパフォーマンスに影響します。例えば、「日本人は数学が得意だと言われている」と聞くだけで、それを聞いた日本人の数学のテストの点数が向上したりするんですね。
そのため、数学の問題を前にして「自分は数学が苦手」だと意識してしまうことは、数学の能力を低下させてしまいます。しかし、数学の問題は、計算能力や論理的な思考能力など、様々な能力を組み合わせて解くもので、苦手意識が具体的にどの能力を低下させているのかは分かっていません。
そこで、リンショーピング大学の研究では
- 数学の苦手意識がワーキングメモリを低下させるのか?
- 数学の苦手意識が数字に関する認知能力を低下させるのか?
という、数学のテストの点数レベルでなく、脳の機能レベルのパフォーマンス低下を実験により測定しています。
ワーキングメモリは一時的な記憶力のことで、複雑な計算問題や論理を展開するために必要な能力。そして、数字の認知能力は、2つの数字をパッと見たときにどれだけ速くその2つの数字の大小関係を判断できるかの能力になります。
結果:苦手意識は脳のパフォーマンスを上げるのか?
早速結果を見てみると、
- 数学の苦手意識は、ワーキングメモリを低下させていた(r=−0.36)
- 数学の苦手意識は、数字の判断速度を遅くしていた(r=0.26)
ということ。
つまり、数学への苦手意識を持ってしまうと、単純に数学ができなくなるだけでなく、脳の特定の機能レベルでパフォーマンスが低下してしまっているんですね。
そして、これらの脳機能の低下が数学の能力テストにどう影響していたのかというと、
- ワーキングメモリの低下は、数学の問題(確率など)を解く能力を低下させた(r=0.39)
- ワーキングメモリの低下は、基礎的な計算能力も低下させた(r=0.41)
- 数字の判断速度の低下は、基礎的な計算能力のみを低下させた(r=−0.33)
- それ以外の直接の効果として、数学の苦手意識は、数学の問題を解く能力の低下(r=−0.15)と基礎計算力の低下(r=−0.28)
ということ。
つまり、数学に苦手意識を持つと数学ができなくなってしまうのは、数学への不安が起こすワーキングメモリや数字の認知能力の脳レベルのパフォーマンス低下が影響しているということですね。
苦手意識の脳機能の低下を防ぐには?
数学への苦手意識が引き起こす脳機能低下を防ぐためには、次の3つの方法や考えを意識すると良いでしょう。
- ①ワーキングメモリの低下を防ぐには
ワーキングメモリの低下を防ぐには、不安を取り除いてあげることが大切。そして、不安を減らすにはエクスプレッシブ・ライティングという手法が有効だと分かっています。やり方は簡単で、自分が感じている不安や感情についてありのままに紙に書き出してあげることです。この手法はテスト前の不安対策にも使えますね。
- ②数字の認知能力の低下を防ぐには
数字の認知能力を高めるには、とくかく数字に慣れることが大切。なので、簡単なレベルから始めて、できるだけ数字に触れる機会を多くしていきましょう。
- ③成長志向で考える
人の能力は生まれつきで決まるものでなく、自分の努力で向上できるものだと考える成長志向が大切。数学を教える人が能力が固定的なものと考えていると、生徒の数学の苦手意識が増えてしまうという研究結果もあります。「自分は数字が苦手だ」という固定観念が、まさに成長思考を阻害してしまうので注意しましょう。
まとめ
本稿では「数学の苦手意識が脳のパフォーマンスを低下している」というお話をしました。
ポイントをまとめると、
- 数学への苦手意識は、脳を阻害してワーキングメモリと数字の認知能力を低下してしまう。
- その結果として、本来の数学の実力以上に数学ができなくなってしまう。
ということ。
数学以外の教科でも、仕事などでも、苦手意識を固定観念として持ってしまうのは、脳のパフォーマンスの低下につながってしまうでしょう。なので、自分も一歩ずつ成長して克服できるという成長志向を忘れないようにしましょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]