能力が高い人ほど謙虚で、能力が低い人ほど自分の実力を知らないは本当なのか?
人は自分のことを高めの評価するバイアスがあります。これはテストの点数、仕事のパフォーマンス、運転などのスキル、性格など様々な場面で起こるもの。例えば、32%ものエンジニアが自分はトップ5%に入る実力だと思っているという研究結果もあります。
そして、ダニング・クルーガー効果として知られているのが
- 自分の能力が低い人ほど、自分の能力を過剰に評価する傾向がある
ということです。本当に実力のある人は謙虚で、能力が低い人ほど自信過剰というのはよく聞く話ですよね。
しかし、この問題について
- ダニング・クルーガー効果が起きるのは、ただのデータの偏りのようなもので、謙虚とか自信過剰とかではないのでは?
という反論もあります。そこで、ケルン大学の研究(*1)がダニング・クルーガー効果は本当に存在するのかについて確かめてくれていましたので、本稿ではその中身を見ていきましょう。
ダニング・クルーガー効果はなぜ起きるのか?
ダニング・クルーガー効果が発生する原因としては3つのメカニズムが考えられます。
- ①能力が低いと失敗が増えてしまう説
能力が低いと失敗が増えたりして、モチベーションが下がったり、メンタルが追い込まれることがある。そうなると、本来の実力をうまく発揮できなくなってしまうので、本来これくらいはできるはずだと思う予測を下回ってしまう。
- ②能力が低いとそもそも実力を正確に推測できない説
例えば、スポーツ選手の実力を推測するのに、そのスポーツのことを全く知らなかったら、正確な推測ができるはずがない。一方で、そのスポーツのプロ選手であれば、他の選手がどの程度の実力かはずっと高い精度で推測できる。つまり、能力を推測するのにもある程度の能力が必要で、能力が低い人は自分のわかる範囲でしか判断できないので過剰に高めになってしまう。
- ③ただのデータの偏り説
100点満点の試験の自分の実力を予測するとして、10点の実力しかない人は、そもそも10点分しか下に予測できないので、90点分の余地がある過剰評価の方向にどうしても傾いてしまう。逆に90点の実力がある人は、過剰評価しようとしても最大で100点の+10点の余地しかないので、推測は90点よりも下になる傾向がある。この予測のデータの底と最大値の張り付きによる偏りが、あたかも自信過剰や謙虚さに見えている。
ただのデータの偏りではないのか?
ケルン大学の研究では、
- ただのデータの偏りなのか?
- 本当に能力が低い人ほど実力の推定が下手で、能力が高い人ほど実力の推測が上手いのか?
ということを実験により確かめています。この実験は学生を対象にしていて、3つのテストで自分の実力をどれだけ正確に推測できるのかを測定したもの。
その結果としては、次のようなグラフが得られています。
このグラフは横軸が能力の高さ、縦軸がテストの点数になります。濃い実線が実際の点数、薄い実線が推測の点数で、この2つの線のギャップが実力の推測の誤差になります。そして、点線がデータの偏りを考慮したモデルの推測値になっています。これらのグラフからわかるのは
- やっぱり能力が低い人ほど、自分の実力を過剰に高く評価している
(実際に0〜1点の実力の人が、5〜6点を推測している) - 能力が高い人は、推測がやや低めになっていて、能力が低い人よりもずっと推測の精度が良い
- データの偏りを考慮すると、能力が低い人の過剰評価が30%ほど改善されたが、それでも過剰評価は残っていた
ということ。
結論としては、ただのデータの偏りでなく、能力が低い人は確かに自分の能力を過剰評価してしまうということですね。特に能力が低ければ低いほど過剰評価も大きくなってしまうので注意が必要です。
まとめ
本稿では「ダニエル・クルーガー効果は本当に存在するのか?」についてお話ししました。
ポイントをまとめると
- 能力が低い人ほど自分の実力を過剰に高く評価してしまうことの一部は、データの偏りの影響ではある
- しかし、データの偏りの影響を考慮しても、まだ過剰評価の効果は残るので、ダニエル・クルーガー効果は確かに存在している
ということです。
自分がこんな状態に陥ってしまわないためには、ある程度の実力をつけるように訓練したり、本当の実力がどんなものかのフィードバックを得るようにすると良いでしょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]