アスリート向けのメンタルトレーニングで幸福感も向上したという研究
アスリートは試合前の不安に対処したり、逆境に立ち向かっていたりと、体だけでなくメンタル面も強くなる必要があります。そして、メンタルの改善はポジティブ心理学で研究がされていて、ネガティブなメンタルから抜け出して、ポジティブで幸福な状態になるにはどうすれば良いのかが研究されています。
なので、アスリートがこのポジティブ心理学のメンタルの改善方法を学べば、逆境や不安の辛い時期にも、ポジティブに乗り越えていける強いメンタルを作ることができると考えられますよね。
そこで、リーズ大学の研究では
- ポジティブ心理学をベースにしたメンタルトレーニングで、アスリートのメンタルの強さや幸福感は向上できるのか?
を実験してくれています。本稿ではこの研究を参考に、逆境に強くなるメンタルのトレーニング方法について学んでいきましょう。
どんなメンタルトレーニングなのか?
それでは、ポジティブ心理学をベースにしたメンタルトレーニングは次のようなものになっています。
- トレーニング期間中は自分の体とメンタルの状態や、心配事、考えたことなどを日記に記録する(強制的なものでなく自分の好きなことを書けば良い)
- 成長マインドセットといって、人の能力は固定的なものでなく、努力次第で伸ばしていけるものだという思考ベースに次の5つのテクニックを学ぶ
- テクニック1:セルフトーク
自分の心の中で「もうだめだ」、「あいつには勝てない」などのネガティブな心の声が聞こえても、それはただの思考に過ぎないことを学ぶ。ネガティブな心の声に揺さぶられてしまうと、運動のパフォーマンスも低下してしまうので、客観的に心の声を受け止める方法を学ぶ
- テクニック2:思考の停止
ネガティブな思考は無理に考えないようにすると、逆に強まってしまうことがあることを理解する。ネガティブな思考から心を切り替えるトリガーとなる言葉や動作を決める。
- テクニック3:思考のコントロール
ネガティブな思考がなかなか頭から離れない場合には、それに抗おうとせずに、客観的に観察する方法を学ぶ。そして、「色々不安はあるけど自分のベストを尽くすことに集中しよう」といったポジティブな考えを取り入れる。
- テクニック4:集中
過去のことや将来の不安、対戦相手のことに気を取られるのでなく、「今ここ」に意識を集中させる方法を学ぶ。ルーティーン動作で集中力を高めるテクニックを学ぶ。
- テクニック5:成功イメージ
今できる自分のベストを尽くした結果として、成功して試合に勝った姿や、自分の実力がグッと向上した姿を想像するテクニックを学ぶ。
という感じでなかなか盛り沢山の内容になっています。
実験:本当にメンタルが鍛えられるのか?
リーズ大学の研究では、先に説明した方法で本当にメンタルの強さが向上するのかを16名のアスリートを対象に実験しています。その結果を見てみると、上記のメンタルトレーニングを一通り受けた後では、
- スポーツに関するメンタルタフネスのスコアが向上した
- スポーツに限らない全般的なメンタルタフネスのスコアも向上した
- 自尊心が向上した
- 自己効力感が向上した
(将来予測できない出来事や障害に出くわしても自分ならうまく乗り越えられるという自信) - ポジティブな感情を多く感じるようになっていた
と良い感じの効果が得られています。後半の3つは幸福感に強く影響する指標でもあるので、メンタルを鍛えて強くすることは、幸福感の向上にもつながることが分かります。
ちなみに、唯一うまく向上しなかった指標として
- 楽観さは今回のメンタルトレーニングでは向上しなかった
ということが分かっています。楽観さは変えるのに時間がかかる項目で、今回のような短期間のトレーニングではなかなか変わらないようです。長期間続けて成功体験を積んでいけば、楽観的な考えも身につくかもしれませんね。
まとめ
本稿では「心理学をベースにしたメンタルトレーニングの効果」について学びました。
ポイントをまとめると、
- 心理学をベースにした5つのメンタルテクニック(セルフトーク、思考の停止、思考のコントロール、集中、成功イメージ)で、逆境でもポジティブに考える力が身に付く
- これらのトレーニングをアスリートで実践すると、メンタルタフネスと幸福感(自尊心、自己効力感、ポジティブ感情)が向上した
ということ。
今回の研究は短期間で色々なテクニックを学ぶ形式のもので、それでも十分な効果が得られています。ポジティブとかネガティブとかは考え方次第で大きく変わるものでもあるので、ポジティブ心理学のテクニックを学んで自分なりに実践することは、意外と大きな効果があるのかもしれませんね。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]