自分が信じていないことを、どうすれば正しく理解できるのか?の研究
人は自分が信じることに沿った情報を積極的に集めてしまうもの。例えば、有名人が何か悪いことをしたニュースが流れると、その有名人の悪い所ばかりを探してしまって、良い所には目がいかなくなってしまいますよね。最近ではコロナにまつわる情報もそうで、コロナにはあれが有効だとか実は有効でないとか、色々と相反する情報も流れましたが、騒動の中で情報を冷静に判断するのは難しいものでした。
自分が信じる情報を優先して求めてしまうバイアスは、読解力にも影響するもので、
- 自分が信じていないことに関する情報に対して、人は読解力が低下してしまう
ということが分かっています。自分が信じていない情報を意図せずに軽視して、そもそも情報を正しく理解ができなくなっているわけですね。
そこで本稿では、これらのバイアスの対抗策として
- メタ認知のトレーニングで、自分が信じていない情報の読解力の低下を防ぐことができるのか?
について実験してくれたヴュルツブルク大学の研究を見てきましょう。
メタ認知トレーニング vs 読解力トレーニング
ヴュルツブルク大学では次の二つのトレーニングを実験して、どちらのトレーニングが自分の信じるものと対立する情報の理解力を向上するのかを試しています。
- メタ認知トレーニング
次の三つのステップで、対立する情報を正しく読み解くトレーニングをする
(1) 自分が今信じている情報が、読解力に影響することに気づく
(2) 自分の信じる主張と、相反する主張の対立点を理解する
(3) 自分の今の知識を元に、両者の主張を評価する
(自分の今の信条でなく知識を活用する)
- 読解力トレーニング
次の6つのステップで読解力を向上するトレーニングをする
(1) プレビュー:文章の全体の構成などをざっと確認する
(2) 質問:各章には何が書かれているのか?などの質問の答え予想する
(3) 読む:実際に文章を読む
(4) 振り返り:本の内容を振り返る
(5) 復唱:議論したり学びのポイントを書き残す
(6) レビュー:疑問に思ったこと、分からなかったことなどを整理する
どちらのトレーニングも情報の理解力を上げるものですが、メタ認知トレーニングが客観的に意見の対立を見抜くことに力を入れていて、読解力トレーニングが文章の内容や要点を見抜くことに力を入れています。
実験:どちらのトレーニングがバイアスを減らすのか?
それでヴュルツブルク大学では、二つのトレーニングのどちらが自分が信じていない情報の読解力の向上に役立つのかを実験しています。実験の題材としては「ワクチンのリスクとメリット」についてで、
- 各参加者はまず自分がワクチンに賛成なのか反対なのかが測定される
- その後にワクチンのメリットに関する文章とワクチンのデメリットに関する文章の両方を読む
- 両方の文章について理解度のテストを行う
- 自分の意見と同じ側の文章と反対の意見の文章で理解度の差があるのかを比較する
といった形になっています。
結果:
実験の結果を見てみると、
- 読解力トレーニングを受けた人は、自分の意見と反対の文章の読解力が低いままだった
(同じ意見の理解度2.28 vs 反対意見の理解度1.72) - メタ認知トレーニングを受けた人は、自分と同じ意見の文章も反対の意見の文章も同じだけの理解力を示した
(同じ意見の理解度2.12 vs 反対意見の理解度2.03)
ということ。
自分の信じる情報に偏ってしまうバイアスを減らすには、読解力トレーニングのように情報を要約したりしてまとめるだけではダメで、メタ認知トレーニングのようにバイアスそのものに気づかなければいけないということですね。幸いなことに、メタ認知トレーニングを受ければバイアスは排除できることが分かっています。なので、自分の意見と反対の情報であっても、バイアスがかかることに気づいて、客観的な知識で対立点を評価するようにしましょう。
まとめ
本稿では「自分が信じていない情報を正しく理解する方法」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- 人は自分が信じる情報と反対の情報に対して、読解力が低下してしまう
- この読解力の低下はメタ認知のトレーニングをすれば防ぐことができる
- メタ認知のトレーニングのポイントは次の3点
①自分が今信じていることは、反対意見の情報の理解を邪魔することを理解する
②自分の意見と対立する意見の相違点を理解する
③その相違点について、客観的な知識で評価をする
ということ。
今回の実験では、ワクチンのメリットとデメリットという科学的な文章が扱われています。このように若干難しめの文章では特に読解力が低下してしまう可能性があるので、バイアスには注意をしていきましょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]