集中力を取り戻す速さに個人差はあるのか?の研究
集中力を維持するのはなかなか難しいもの。メールの着信が気になったり、周囲の人の会話が気になったりと、外部刺激で注意が削がれてしまうと、本来のタスクに集中を戻す必要があります。もちろん、こうした外部刺激のない少ない環境を整えることも大切ですが、完全に外部刺激のない環境を作ることもできないため、集中力を取り戻す力が大切になります。
そこで本稿では、
- ワーキングメモリのキャパシティによって、注意を戻すスピードに個人差が出るのか?
を調べてくれた研究を見ていきましょう。
ワーキングメモリとは
ワーキングメモリとは一時的な作業記憶のことです。ワーキングメモリは生活にとっても必須なもので、次にやるべき行動の計画とか、相手が話している内容か、商品の値段とか、日常的な情報はワーキングメモリに保持されて処理が行われるんですね。
しかし、ワーキングメモリのキャパシティは人によって違っていて、多くの人は3つの記憶がキャパシティになっています。例えば、「イヌ、サル、トリ」という3つの単語はすぐに記憶的でも、「イヌ、サル、トリ、ウシ、ウマ、イルカ、トカゲ」みたいに7つの単語にもなると覚えられない人が多いでしょう。人と話していたら今何をやっていたのか忘れてしまったり、買い物にいったらある商品を買い忘れてしまったりと、ワーキングメモリが足りなくなってしまうと色々と困る事態にもなってしまうんですね。
ワーキングメモリと注意力
オレゴン大学の研究では、ワーキングメモリが注意力の回復の速さと関係しているのかを調べています。
一つのタスクに集中しているときは、ワーキングメモリにはそのタスクの情報が保存されています。しかし、メールの着信などの外部刺激に注意が奪われてしまうと、ワーキングメモリのその外部刺激が割り込まれます。そうすると、ワーキングメモるのキャパシティが少ないと、本来のタスクがワーキングメモリから押し出されてしまう可能性があるんですね。
そのためオレゴン大学の研究では
- ワーキングメモリのキャパシティが大きい人ほど、外部刺激があったときに注意を戻すのが速いのでは?
をいうことを実験しています。
実験:外部刺激と注意の回復速度
この実験では、視力検査で使われる4方向を向いたCの字型の記号を使って、様々な色のCの中から指定された色のCの向きを素早く答えるというタスクを行っています。このときに、外部刺激として
- 指定された色と同じ色の四角形
- 指定された色と違う色の四角形
- 外部刺激なし
の3パターンが用意されて、外部刺激がある場合にどれだけ反応速度が低下するのかを調べています。
ちなみに、ワーキングメモリのキャパシティも、様々な色の四角形の配置を覚えるタスクで事前に測定がされていて、ワーキングメモリと注意力の回復の速さの関係が調べられています。
結果:
実験の結果を見てみると、
- ワーキングメモリのキャパシティが大きい人も小さい人も、同じように外部刺激に注意を奪われていた
- 外部刺激がある場合には、有意に反応速度が低下していた
- しかし、ワーキングメモリのキャパシティが大きい人は、外部刺激がある場合でも、注意力を速く回復して反応していた
ということ。
つまり、ワーキングメモリのキャパシティが大きくても外部刺激への反応は止められないけど、素早く注意を戻すことはできるということですね。ワーキングメモリが小さいと、あれ何をやってたんだっけ?と元のタスクにスムーズに戻れなかったりもするので、ワーキングメモリは集中力にとっても大切なものみたいですね。
まとめ
本稿では「ワーキングメモリと集中力の回復」についてお話ししました。
ポイントをまとめると、
- ワーキングメモリのキャパシティが大きい人ほど、外部刺激で注意が削がれたときでも、素早くもとのタスクに注意を回復できる
ということ。
ワーキングメモリを鍛えるにはN-Back課題というタスクだったりが有効だと言われています。調べればアプリゲームでも出ていたりするので、脳トレとしてやってみるのもいいでしょう。
以上、本稿はここまで。
[参考文献]
*1 : Individual Differences in Recovery Time From Attentional Capture